これは運命
「マリ。今度、会うことが出来たら会えたりしないかな? 少し君に頼みがあるんだ」
「え? まあ、その、会えたら会いたいですが、まず、頼みですか?」
僕は真っ直ぐにマリを見詰め、マリは愛らしい猫目を僕に向け、少しの間見詰め合い、僕は口を開いた。
「君を描きたいんだ。猫の姿の君と、想像でしかない人間の君の姿を」
マリは戸惑ったような声を漏らしてから、表情を真剣にし、そして、静かにこう言った。
「私で良ければ、絵のモデルになります。私何かでいいのか分かりませんが、とても嬉しいです」
マリはお座りをし、前足の片方を上げて僕の足に置いた。
尻尾がふりんふりんと動き、その動きが愛らしいと思い、その姿を見ただけで僕の心に花が開いた。
再び抱き抱え、僕は不思議そうにしてるマリに、軽く口付けを落とす。この行動は体が勝手に動いたようなものだ。
君の存在は、誰もが振り返ってしまう。
……月君よ、君がもし人間だったら大層美しい人間だろう。僕は君に出会えて嬉しいよ。
「マリ。君は美しいよ。こんなにも美しい猫は見たことがない。僕は君に惹かれた。きっとこの出会いは運命だったんだ」
「……フランさん」
マリは静かに僕の名を呼び続け、呼び続けている声がだんだん弾んで行っている気がする。これはきっとマリが嬉しさを表している声に違いない。とても嬉しい。
「フランさん、フランさん。私も運命だと思っています。……だって、いつも見ていた貴方とこうしてお話が出来たのですから」
マリが小声で言った言葉は拾うことは出来なかった。何と言ったのか気になるが、変に追及してしまえば嫌われてしまう可能性があるから追及しては終わりだ。折角出会えた、神様のご縁を無下にしては駄目だろう。
「ねえ、マリ。僕は君と過ごしてみたいんだけど、いいかい?」
「え!?……ごめんなさい。それに関しては心の準備が出来ないです。お気持ちは嬉しかったです。私は今の所誰にも飼われる気はありませんから」
『飼う』。猫だからそう表現するしかない。マリは人間ではないのだから。
飼うという表現しか出来ないというのに困惑してしまい、僕は何とも言えない気持ちになった。
僕は慌てて、帰る準備に取り掛かり、マリにまた会おうということを言い残してこの場から離れようと足を運ぶ。
少し早足になってしまった。僕は何を考えていた、どんな気持ちで家に来ないかと誘った。
……分からない。あの言葉は無意識だったのだろうか。
マリの姿を想像したら、動悸がした。あの美しい声で名前を呼ばれる度に心は歓喜してしまった。
あの出会いは偶然だったのか、必然だったのか。僕は勝手な解釈で神が引き合わせてくれたのだと考えてしまう。偶然にならなきゃいい。またきっと会える。
この想いと感情が不明だが、これだけは感じた。
本当に僕はマリに惹かれていたのだ。きっと、運命だった。あの子はまるで鈴月。鈴の音のように愛らしく、月のように美しい。それだけは感じる。君の美しさは暗い夜空に明かりを灯す輝きし月なのだから。
……君に出会えた今日を、僕は宝物にする。