白猫のマリ
変わった生物を見たというのに、僕の思考は冷静で、驚きもせずその白猫を見下ろした。
実を言うと、驚きというよりも、この猫に目を奪われている。その辺りで見掛ける野良猫と違い、綺麗な白い毛並は美しく、月を連想させる金色の双眸はこの美しい猫の存在を一層際立てた。
「君はどこかの飼い猫かい?」
「いいえ。もう飼い主は亡くなりました。主人は病に侵されてしまったのです。……とても優しいお爺さんでした」
「……そう、か。ごめんね、そんなことを聞いてしまって」
「あ、謝らないで下さい。私は別に悲しみに暮れている訳でもありません。少し寂しいですが、一匹の世界に戻るのも意外と楽しいですし」
白猫は目を細めて、愛らしい笑い声を上げて笑った。
僕は白猫に触れた。白猫は、ビクッと体を揺らし、驚いたように僕を見上げた。
白猫は安心してきたのか、目を細めて僕の手を普通に受け入れていた。僕を受け入れてくれている気がし、それが僕はとても嬉しい。美しく愛らしい白猫、ただ純粋に僕は君を連れていきたいと思った。
そういえば、この子に名前はあるのだろうか。気になるから聞いてみよう。
「君に名前はあるのかい?」
「マリです。名乗り忘れてましたですものね。貴方の名前は何ですか?」
「僕はフランだ。マリ、君の名前はとても愛らしくて君に合っているね。とてもいい名前だ」
「え!? ……な、何を言ってるんですか。……まるで私を好きだと言ってるみたいに聞こえますよ」
「何か言ったかい?」
「い、いえ。何でもありません。フランさんは格好よくて優しい、綺麗な方だと感じて見惚れていただけですから、気にしないで下さい」
マリは慌てふためいたようにそう言い、尻尾を地面に叩きつけた。
その言葉は言われ慣れている筈なのに、少しだけ他と違う気がしてきていた。
少し心が揺れてしまったのを僕は気付かない振りをした。