今、君に…
マリと別れてから、あれから二年の歳月が経った。
マリに会えない悲しさ。僕は悲しさを紛らわすように絵を描き続け、その描かれていく絵が全て空想上のマリと猫のマリで、より一層虚しさと悲しさを感じさせていた。
……会いたい。君に会いたい。僕は君を忘れることは一度もなかった。恋しい、恋しい。
幾度となく見てきた夢は花畑でマリと一緒に居る夢だった。マリが一回転すると人間の姿になり、マリは愛らしく微笑んでくれる。嬉しいのに、幸せなのにこれはただの夢幻に過ぎなくて僕は悲しみに暮れた。
――……神様。何故僕とマリを引き合わせてくれたんですか? これは本当に運命だったんですか? 神様、教えて下さい。何故人間と動物は相容れない存在なのですか?
僕は何度も神様に問い、願い、憂いを嘆いた。それでも神様は答えてくれることも、マリに会わせてくれることもない。
神様は酷い人だ。神様は必ずしも願いを叶えてくれる存在ではないという事実が、とても酷な物にしか思えない。
僕は止まっていた筆を走らせ、マリが歌っていた歌を歌った。
──────
夜になり、僕はろくに夕飯を摂らずにシャワーを浴びるだけ浴びてから髪を乾かして風呂場を出た。
早く寝ようと思い、僕は寝室へと向かう。
……いきなりだった。何かの幻覚か分からないが、マリの声が耳に届いた。
目の前に一面の花畑が広がる。中央に居る白髪のショートカットの女性は僕を見て微笑んだ。その女性は想像でしかない人間のマリ。僕は切羽詰まったような声でマリの名を呼び、マリに駆け寄ろうとした。
花の香りが鼻孔を擽り、甘い、甘い香りが纏わりついてくる。
「マリ、マリー!」
僕は夢中にマリの名を呼んだ。マリに触れようとすると、ただ空を掴むだけでマリに触れられず、さっきまでの空間が嘘のように変わり、自分の家の中に戻っていた。
虚しく宙を彷徨う手は、そこにマリが居ないと感じさせる。
……僕は病気になってしまったのだろうか。マリが居ないという現実がこんなにも苦しい物だとは思わなかった。
――フランさん。私はここに居ますよ。フランさん、会いたいです。
不意に頭の中に響いたその声を聞いた僕は無意識の内に己の体を動かした。




