マリの想い
マリに案内されながら森林区を歩き、暫く歩くと、目の前に花畑が現れた。
夢で見た景色。風に揺られた花の甘い香りが鼻孔を掠め、綺麗な中にも愛らしさのある花畑に目を奪われた。
僕は駆け出した。こんなにも綺麗な花畑が実在するとは思わなかった。まるで映画やドラマ、アニメに出てくるような景色だ。
マリは嬉しそうに笑い声を上げ、笑っている。君とこの景色を見れて僕は幸せだ。この場所を教えてくれてありがとう。
僕は草の絨毯に寝転がり、ここからでも仄かに香る甘い香りを鼻で感じ、僕の胸に乗っかってるマリの小さい体を抱き締めた。
温かな太陽の光を浴び、その心地よさに僕は瞼を閉じた。
風に揺れる木々の音。さわさわと草花は揺れ、今まで感じたことのない心地よさだった。
小さな重みのある存在、マリは穏やかな風に乗せて歌い出した。
美しい歌声。マリと初めて出会った時も歌ってくれた、家に居てくれていた時も歌ってくれた、その美しい歌。マリの歌声と存在は僕の心を癒してくれた。
歌が終わり、マリはざらざらとした舌で僕の腕を舐めた。それが擽ったくて、僕は声に出して笑い声を上げた。
「ふふ。フランさん、擽ったいですか?」
「ハハ。うん、とても擽ったいよ。じゃあ、仕返しとしてマリは僕の擽り受けをてくれてもいいかい?」
「嫌です。フランさんは一人で笑ってればいいので、私を擽る必要はありません」
マリはそう言い、再びざらざらとした舌で舐めてくる。その擽ったさが何か好きで、僕は笑い声をただ上げた。
暫くマリの攻撃という名の擽りを受け、僕らは笑みを漏らして笑い出した。
僕は出会った頃にしたキスをマリに落とす。マリは目を見開き、驚いていた。
僕は真っ直ぐマリを見詰める。そして、ゆっくり口を開いた。
「好きだよ。僕は君が好き。多分、出会った頃から君に惹かれていた。君と過ごしていく内にその想いが強くなっていって僕は苦しいんだ。……猫の君に言うのは可笑しいけど、僕は君を愛している」
「……っ。フランさん。……フランさん、少しだけいいですか?」
マリはゆっくりと口を開いて話し出した。
「私は、前々からフランさんのことを知っていました。よく湖で絵を描いている姿を見ていたからです。……私は、フランさんの絵に対する真剣さと取り組み、そして、優しい瞳に惚れました。好きになってしまったのです」
マリは一つ一つ丁寧に話し、話し終えたと思ったら間を置いてこう言った。
「──『私は人間になりたい』。私は強くそう思いました。人語は喋れるのに、何故私は人間ではないのだろう、何故人間と動物は相容れない存在なのだろう、と」
マリは悲しそうにそう言い、僕の手を舐め出す。
僕は再びマリを抱き締めた。
……僕の方が好きになるのは遅かったけど、同じ気持ちだったんだ。もっと早く君に出会えていたら良かった。僕が人間じゃなければ良かった。
「私は、いつもお月様に居る神様にお願いをしているんです。どうか私を人間にして下さい、と。……馬鹿みたいですよね。それでも私は本気です。今日からまた私だけの生活を送らせて下さい。次会う時は、私が人間の姿になった時に会いましょう」




