思い出は時にあたしを壊すか
第五話です!
「ずっと待ってたんだぞ?」
ちょっと意地悪そうな笑顔。
さも当たり前みたいに近づいてこないでよ。
「黙って、ニセモノ。あんたもこの変な世界の何かでしょ。もううんざり」
「ひどい言い草だな。どした? 機嫌悪いのか?」
「悪いも何もないでしょ。気安く話しかけないで」
「何怒ってるんだよ? 俺何かした?」
「ふざけるのもいい加減にしてよ!!」
同じ顔。
同じ声。
同じ仕草。
全部同じだけど、こいつはあいつじゃない。
それにあたしはもう…。
「あんたとはもう別れた。あんたがそう言った。終わりにしたのはあんた!」
ニセモノに何でキレてるんだろう。
というか、ムキになる必要なんてないのに。
何で、何でまだ苦しいの?
「何言ってるんだよ。俺そんなこと言ってないだろ」
お父さんの時と同じだ。
こいつも、あたしにとって都合のいいニセモノなんだ。
でも、だからって素直に受け入れられるわけがない。
「ごめん、何か機嫌悪くしたみたいで。俺、そんなつもりなくてさ」
「…………やめ、てよ」
「ん? あっ、何かして欲しいことあったら言えよ。出来る限りのことするからさ」
「やめて」
「そうだ、今度遊園地行こう? 前から行きたいって言ってたもんな」
「やめてよ!!」
ニセモノのくせにニセモノのくせにニセモノのくせに。
分かってる、ここにあるのは全部都合のいいものばっかり。
だからこんな優しいことばっかり言うんだ。
お願い、もう……黙ってよ…。
「あいつはもうそんなこと言わない。あたしが知ってるあいつは、もうどこにもいない。忘れたいの。あいつのことも、あいつと過ごした時間のことも、あいつを好きだった自分のことも。全部全部、きれいさっぱり忘れようと頑張ってたの!」
もう…一年経つ。
それなのに、やっぱりあたしまだ引きずってるんだ。
あー、最悪。
絶対泣きたくなかったのに…。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
「終わりにしよう」
「……え?」
「俺達、もうダメだ」
「…………」
返す言葉が見つからない。
それは、心のどこかであたしも同じことを思っていたから。
ただ先に言われただけ。
あたしだって言おうと思ってたんだ。
だから、もっとしゃんとしろよ…あたし。
「これからは顔も名前も知らない、赤の他人になろう。出逢う前の俺達に」
「それって…」
全部、忘れろってこと……?
「俺も忘れたい、お前のこと」
忘れ…たい?
出逢った時は、これが運命だって思った。
子どもみたいでしょ?
実際、子どもだった。
相性が良いなんてもんじゃなかったよね。
前世は双子だったんじゃないかってくらい仲が良くて。
それがずっと続くと思ってた。
ずっと近くにいたから気付かなかった。
それが当たり前だと思って、嫌われるなんて考えたこともなかった。
だから、自分勝手なことばっか言って…たくさん傷付けて。
好き…だったはずなんだ。
でもいつからか好きが分からなくなった。
寂しいから、もっとかまって欲しいから、気を引こうとあたしなりに頑張った結果なんだと思う。
それが、あんたには重すぎた…。
― ― ― ― ― ― ― ― ―
今目の前にいるのは、あいつとは違うニセモノ。
そう、違うんだ。
まだあたしを好きでいてくれてる、あの頃のあいつ。
きっと、手を伸ばせば掴んでくれる。
名前を呼んだら、しっかり頷いてくれる。
あたしの名前を呼んで、抱きしめてくれる。
でも、それでいいの?
ここにいれば、またあの時間を取り戻せる。
けど、また同じ理由で嫌われるかもしれない。
あたしはあいつをもう一度失える?
「ごめん、俺が悪かったから、お願いだから泣くな」
やめて、もう……優しくしないでよ。
『俺も忘れたい、お前のこと』
思い出したくないのに。
忘れようとしてるのに。
「俺は、お前の笑った顔が好きだ」
「やめてよ!! もう思い出したくない、聞きたくない!! これ以上あたしにつきまとわないでよ!!」
静寂。
たまに聞こえる苦しい音。
これは…あたしの声?
耳の中に、まだあいつの声が残ってる。
頭の中で、まだあいつとの思い出が浮かんでは沈む。
「もう、ここから出してよ……」
さっきとは真逆の真っ白い空間。
あたし、ずっとこのままなのかな…。
このままなら、いっそ…。
「死にたい、って?」
あいつとは違う誰かの声。
今度は…誰?
いつまでこのやり取りは続くの?
「誰って、まぁ…あんだけ色々見てたらそうなるか」
「ちょっと…何で」
「何であたしがいるのかって?」
声の聞こえる方向、そこにいるのは紛れもないあたし。
全てを見透かしたような不敵な笑みを浮かべた、あたし。
あぁ、地獄は本当に果てしない。
誤字脱字、変な表現がありましたら指摘お願いします。
アドバイスなどいただけると嬉しいです!
<次回予告>
目の前に現れたあたし。
彼女が語るはウソか、マコトか。
もう、遅すぎたのかもしれない。
あたしはもう、彼女の手の中……。