思い出は時にあたしを惑わすか
第三話です!
このままじゃ埒があかない。
とにかく、ここじゃないどこかに行かないと。
正直……この部屋にはもういたくない。
相変わらず目の前にはたくさんの扉。
とりあえず全部の扉に入ってみよう。
きっとどこかに繋がってる。
少なくともここじゃないどこかに…。
緑色の扉。
初めての文化祭。
あたし達のクラスは喫茶店をして、午後はこれでもかってくらいの人で溢れてた。
目の前に広がるのは、ちょうどその頃の教室。
水色の扉。
中学校の卒業式。
絶対に泣かないって決めてたのに、いざとなったら誰よりも泣いてたあたし。
扉の先では友達の答辞が行われていた。
橙色の扉。
高校の体育祭。
まだクラスに馴染めてないうちに始まった体育祭はすごくあたしを苦しめた。
でもそれと同時にクラスメイトの優しさが身に染みた日。
扉を出るのが少しつらくなった。
藍色の扉。
あたしの誕生会。
わざわざ友達がサプライズで開いてくれたっけ。
扉の先に入るのと同時にクラッカーを鳴らされた。
少し、そこに留まりたくなった。
カラオケに行った日。
初めて友達が出来た日。
海に行った日。
友達だけで遊園地に行った日。
夏祭りの日。
どの扉の先も、楽しかった日々に繋がっていた。
あたしが何度も戻りたいと願った思い出に。
扉をくぐるたびに気が重くなる。
きっと、次の扉も……楽しかったどこかへ繋がってる。
そう思うと……足が動かなくなった。
次の扉に手をかけたまま動けなくなってしまった時、足元にあの字が浮かび上がってきた。
“サア、行コウ? ミンナガ待ッテルヨ?”
「……うるさい」
そうでしょうとも。
そんなこともう分かってる。
だからこそ行きづらいんじゃない。
ここは普通じゃない。
怖いし、意味不明だし、奇怪。
でもここにいればいつでも楽しかった時に行ける。
つらいことなんて一切ない。
楽しいことだけがここにはある。
ここも慣れれば良い所なんじゃないかとさえ思えてくる。
……ダメだ、あたし…ここにいたいって思い始めてる。
帰りたくない、って。
きっとあたしおかしくなってるんだ。
しっかりしなきゃ。
“楽シイネ。幸セダネ”
この状況に騙されちゃいけない。
あたしは、ここから出なきゃ。
文字を踏みつけて扉を開けた。
この先が出口の手がかりになっていることを願って。
そろそろ慣れてきた白さの中、そっと目を開けた。
まず視界に入ってきたのは青い空とたくさんの人々。
そして遠くから聞こえる動物の鳴き声。
ここは…動物園。
「ぼーっとしてどうしたんだ? 早く行かないと今日中に全部回れないぞ?」
聞き覚えのある声にハッと息が止まった。
無意識に涙が溢れる。
絶対に間違えない、この声は……。
「お父さん……!」
誤字脱字、変な表現がありましたら指摘お願いします。
アドバイスなどいただけると嬉しいです!
<次回予告>
徐々に正気を失いつつあるあたし。
そんな中、扉の先に現れた父親。
驚きを隠せない中、あたしはどんどん狂気に飲み込まれていく。
正気を保ち元の世界に戻れるのか。
それともこの世界に留まるのか。
文字が示す不可解な謎に真実が……?