思い出は時にあたしを閉じ込めるか
第二話です!
「そうそう! この前電車で会ってさー」
「あたしも会ったよ。全然雰囲気変わらないよね」
「確かに。でもさ、逆にむちゃくちゃ雰囲気変わった奴もいるよね」
「いるいる! あっ、やっと来た! おーそーいー」
遅いと言われたのは紛れもなくあたし。
目の前で机を囲んで座っているのは中学校時代の友達。
そしてここはその友達の家。
扉の向こうに足を踏み入れると共に、眩い光があたしを包んだ。
その光が薄れ、目を開けると、そこは同窓会真っ只中。
さっきまであたしがいたはずの過去。
どうして…??
「早く座りなよ! 遅刻なんて珍しいね」
もしかしてあたし、夢でも見てたのかも。
同窓会には今来たばっかりで、玄関かどこかで意識飛んでたとか。
意識飛ぶのはあたしにはよくあることだからありえる。
「……ごめんごめん、軽く意識飛んでて遅くなっちゃった」
「相変わらずだなぁ。そう言えばさ、部活中に意識飛んでたこともあったよね!」
「その話はよしてよ。無意識なんだから」
「意識飛んでる時軽く口開けてるよね」
「あははは、そうそう! 窓の方向いてる時とかすごい顔!」
「やーめーてーよー! ほんと恥ずかしい!」
気分はまるで中学生。
あの頃に戻ったみたい。
懐かしいのに全く変わらない友達が、すごく嬉しかった。
色んな話をした。
すごく楽しくて、面白くて、喉が壊れるかと思うくらい笑った。
やっぱり久しぶりに会うとなると会話がいつもより弾むなぁ。
時間が経つのも忘れちゃう。
今何時だったっけ。
時計を見た瞬間、驚きで息が詰まった。
ありえない。
時計の針が……ない。
「あのさ…時計どうしたの?」
「時計? 何言ってんの。そんなに帰りたいのー?」
「そうじゃないって! えっ、今何時?」
そう言えば外は?
同窓会は正午からだった。
絶対あれから4時間は経ってる。
でも未だに太陽は屋根の上。
「ごめん、あたしそろそろ帰らなきゃ」
ここ、おかしい。
時間が経つのが遅いなら分かる。
でもこれは確実におかしい。
一旦ここから出て、頭を冷やさなきゃ。
急いで靴を履いて玄関のドアノブに手をかける。
玄関の外には茜色の空が広がっていて、あたしを迎えてくれる。
……はずだった。
「うそ……でしょ」
目の前に広がる空間は奇妙なもの。
白い壁に白い天井、白い床。
天井から吊るされた1本のろうそく。
壁には色とりどりのドアが貼り付けられていて、木製の机がその中央に鎮座している。
「さっきまで同窓会だったんだよ? ここ、さっきの変な場所……」
よく見れば机の上にはまた白いカードが二つ折りにされて置かれている。
きっと、あのカードと同じ赤い文字が書かれているに違いない。
にじんだあの文字を思い出すだけで寒気がする。
でも、見なければならない。
よく分からないけど、何故だかそう思った。
恐る恐るカードを開いた。
そこにはあの、赤い文字。
“早イオ帰リダネ。楽シクナカッタ?”
「……楽しかったに決まってるでしょ。変な事さえなければね」
今1番分かっていること。
それはあたしが今普通じゃない状況にいること。
そして、今すぐこの状況を脱しなきゃいけないこと。
とにかく、これだけ扉があればどれかは出口のはず。
さっきまでなかった扉だけど、こんな状況なら何があってもおかしくない。
1つ1つ扉を開ける。
足だけは踏み入れないように。
でもその先はただ真っ白なだけで、どれも出口とは言えなかった。
「出れない……」
正直頭の中はパニック状態。
自分が何をしているのかも分かってない。
ふと視界に異変が映り込んだ。
さっきまで無かった何か。
すぐ横の壁に殴り書きされたような……赤い文字。
“何処行クノ?”
“行カナイデ”
“ズット、君ト一緒”
「やだっ!」
勢いよく後ずさってしまったせいで腰を机にぶつけてしまった。
痛みに思わずしゃがみこむと、床にはもう見慣れてしまったあの文字が。
“出口ナンテ壊シテアゲル”
恐怖で身体が震えてくる。
パニックどころじゃない。
もう、身体のどこも動かない。
閉じ込められた……。
誤字脱字、変な表現がありましたら指摘お願いします。
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<次回予告>
扉の先に続くは全て見覚えのある光景。
時の進まない空間をさまよう中、文字は変わらず語りかけてくる。
ここは一体どこなのか。
出る術はないのか。
空間の1つ1つがあたしを狂わせていく……。