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思い出は時にあたしを誘うか

 連載始めました。

 サブタイトルの「誘う」は、さそうではなく、いざなうです。

 軽くホラゲーの影響を受けていますが、ホラーではありません(笑)


 楽しかった。

 そんな思いと共に溜め息がふっとこぼれた。


 夕暮れ時。誰もが帰路に立つ中、あたしは1人河原に座り込んでいる。

 春だと言ってもまだまだ風は冷たくて、時折あたしは身を振るわせた。


 同窓会。久々に出逢った中学校時代の部活友達はあの頃のままで、とても懐かしかった。

 高校での生活。カッコいいクラスメイト。懐かしい昔話。最近の出来事。これからの進路。誰が誰と付き合ってて、別れたとか。今付き合っている人はどんな人とか。高校生活で何人の人に告白されたかとか。ありふれた話題で盛り上がった7時間。

 7時間って聞いたらすごく長い時間に思えるけど、実際は本当に一瞬。

 さっきまで耳の後ろが痛くなる程笑って騒いでいたのに、一体あの楽しい時間は何処にいったんだろう。

 1人になった途端に押し寄せてくる切なさに溜め息が止まらなくなる。


 あたしは来月から受験生。この1年間はあたしにとって人生最後の勝負の年になるかもしれない。

 そうは分かってはいても、やっぱり勉強嫌いは治らないし、意欲はますます減っていく。

 偏差値は上がらないし、宿題は終わらない。

 行きたい大学だって決まってないし、受かる自信は皆無。

 でも、みんなそれぞれ頑張ってるんだよなぁ。


 来年の今頃は、本当にみんなバラバラになる。

 中学時代に言っていたバラバラとは訳が違う。

 今までは高校は違っても住む場所は変わらなかったし、会おうと思えば時間の都合次第ですぐ会えた。

 でも今度はそうはいかない。県外の大学に行く子は少なくないだろう。

 高校での友達と違って、中学時代の友達と会う機会は限りなく少ない。

 もしかしたら、会うのは今日で最後かも。

 そう思うと目の奥が熱くなって、息が出来なくなる。


 どうして、楽しいままじゃいられないんだろう。

 どうして、ずっと一緒にはいられないんだろう。

 楽しい時間であればあるほど長く過ごしたいのに、それが許されたことは1度もない。


 膝と膝の間に顔を埋めると頭のだるさが少し楽になった気がした。

 両腕でギュッと身体を抱きしめて深呼吸。

 でも、身体の奥から漏れる嗚咽は止まらなかった。


 いっそ時が止まれば……あの楽しい時にずっといられれば……。


 鼻で自分を笑った。

 そんなこと起こらないし叶うはずがない。

 こんなことを思うなんて、いつの間にあたしはここまで弱ってたんだろう。

 いつもの強気はどうしたの? 負けん気は?

 そんな夢物語にすがってちゃ生きていけない。

 それはもう分かったことでしょ?


 さっきよりも強く目をつぶった。

 幾分か風が強くなった気がする。


 大丈夫。そんな言葉は所詮自己暗示。

 やっぱり人間は寂しさには勝てないんだよ…。


 叶わないって分かってる。

 思うだけ無駄だって知ってる。

 でも1度だけ、もう1度だけ…すがったっていいよね?



 楽しい時のまま時間が止まって、ずっとみんなと一緒に……。



 気付けば風が止んでいた。

 さっきまでうるさかったカラスの鳴き声も聞こえない。

 もう夜になったのだろうか。そんなに時間が経ったとは思えないけど…。


 顔を上げようとして背中に何か違和感を感じた。

 何か、硬いものがある。

 押してもびくともしない。


 目を開けて、あたしは息を呑んだ。

 目の前には木でできた机があり、その周りに置かれたたった1つのイスにあたしは先ほどと同じ格好で座っている。

 違和感の原因は背もたれだった。


 壁や天井は全面白色。

 天井からは小さなろうそくが1本吊られているだけで、他に明かりのようなものは見当たらない。

 なのにこんなに明るいのはどういうことなんだろう。

 壁に窓はない。

 その代わり黄色の扉が1つついているだけ。


 ここは一体何処なんだろう。

 さっきまで河原にいたはずなのに、こんなこと普通じゃありえない。

 これは現実。ラノベやアニメじゃない。

 ……夢? これは、夢?


 身体が固まって頭も良く回らない。

 あれ…? さっきまで机の上には何も無かったはず。

 目の前に小さな白いカードが置かれている。

 いつの間に…。


 ゆっくりとカードを手に持った。

 裏面に赤い文字で何か書かれてる。



 “オカエリナサイ。ズット、君ヲ待ッテタヨ”



 寒気が全身を襲い、思わずカードを落としてしまった。

 それでもカードから目が離せない。

 文字がみるみるにじんで、まるで…血文字……。


 突然響き渡った、何かが軋む音に思わず身をこわばらせた。

 恐る恐る顔を上げると、黄色の扉が勝手にゆっくりと開いていく。

 扉の先はただ白い世界が広がっているだけで何も見えない。

 これは何かの誘導?

 でも、行くしかない。

 直感がそう告げる。


 扉の間近に来ても先はただ白いだけ。

 進んだらもう戻れないのだろうか。

 そう思うと進むのが怖くなる。

 戻ろうかと振り向くと、あの不気味なカードが跡形も無く綺麗に消えてしまっている。

 この部屋にいる方がむしろ危ないかもしれない。

 やっぱり、行かなきゃ…。


 目をつぶりながら1歩を踏み出した。

 あたしが入るのと同時に扉が勝手に閉まった。

 本当に、もう戻れない。




 あたしは後悔する事になる。

 ここに来てしまった事に、すがってしまった事に。


 あたしはあのカードに書かれた言葉の真意を分からなければならなかった。

 あたしは…ここに来てはいけなかった……!




 誤字脱字、変な表現がありましたら指摘お願いします。

 アドバイスなどいただけると嬉しいです!


 <次回予告>


 扉の先はさっきまで過ごしていたあの時、あの場所。

 悪い夢を見ていただけ。

 安心するあたしに、容赦なく違和感は襲いかかる。

 新たに現れた扉の先は?

 まだ狂気は始まったばかり…。

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