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キミの名前。

作者: 織 そらた

かなり昔書いたやつなので、記憶あやふやの上かなり季節ハズレです・・・

・・・疲れた。


青年は、何度目か分からないため息を吐いて姿勢を正した。目の前の少年チラリと見ると、少年は楽しげに目を細めて笑った。


「まだ分からない?」

「・・・分かんないなぁ」

何度同じやり取りを繰り返したか。

さっさと終わらせたいのに。

青年はまた、深いため息を吐きイラついたかのように頭を掻いた。


「言って早く還ってくれないかな。」

「それちょい直球すぎ」

「生憎、回りくどく言うのは苦手でね。」


少年は楽しげに、高角をあげる。

「だから最初に言ったのに。トリック オア トリートって。」

「ハロウィンはとっくに終わってるんだけどね」

「意外に細かいなぁ。モテないでしょ」

「・・・それは、その月にやってこそ盛り上がる行事じゃないかな。そして私は意外にモテるんだよクールなのがツボだと・・・なんだその目は。」

「いやいや~」


なんだか若干、腹の立つような言い方だ。

手元にあった書類に目をうつす。枚数はあまり無い。そこには箇条書きで、目の前の少年の生い立ちが書かれていた。読むのも5分程度で読めるような内容で、あまりにも短い人生だと思う。

少年に目を向けると、苦笑して目を閉じた。


「ぜ~んぜん内容ないでしょ。あまりにも短い人生だったからさ。」

・・・もしやそれで答えれなかったのだろうか。


「けどね、名前はもらったよ。」

「じゃあ、早く言ってくれないかな」

「だから、その紙を見て推理してってば」

「内容が無いと自分で言って無かったかな。それに私は回りくどいことが嫌いでね。」

「さっきは苦手だって。」

「気が変わったんだ。。だから、早く教えてくれないかな」

「・・・どこがクールなのさ」


失礼なやつだね。

大体、この少年は最初から失礼で礼儀もなかった。

こちらの話を一切聞かず「トリック オア トリート!」と喚き、そんなもの持ってないと言うと、悪戯なのか何なのか「じゃあ、名前を当てて」と言ってきた。目を合わすのも初めてのやつの名前など当てられるか。生い立ちの書かれている紙を見ても何が名前に繋がっているのか。

「・・・ここは白いね。」

急に少年が呟いた。なんだか、表情はあまり明るく無かった。


「ここが?・・・君にはそう見えるのか?」

「え?」

「私には何の変哲も無い部屋に見える。色彩も落ち着いた茶色がベースだ。実際、その座ってる椅子も白く無いしね。」

「・・・ええ?」

よほど驚いたのか、立ち上がり周りを忙しなく見回す。その様子ににああ、と思う。

「この部屋は見る者の心で出来ているからね。」

「心で出来てる?」

「私は自分の落ち着ける部屋を好んでいるからね。だから何の変哲も無い部屋に見える。君は多分白に思い入れでもあるんじゃないのかな。」


ある者はキラキラのお城のような部屋に、またある者はとても殺風景で牢獄のようだと言っていた。

また、ある者は同じように白い部屋だったと言った。

・・・目の前の少年にも、ただの白い部屋に見えるらしい。


「う~ん、どうかなぁ。まあ最初の思い出は確かに白かったし。思ったよりも記憶にあったのかも」

少年はそう言って白だという壁を撫でた。

「白かった?」

「真っ白~。すっごい寒い中生まれたらしくてさ。まあ、これは聞いた話だけどその日は一段と白くて寒かったって。」

「だから白かった?」

「また、赤に白って映えるらしいから。」


少し懐かしそうな表情をして話し出す。

「・・・赤い色のマフラー貰ったんだ。女の子から。」

「マフラー?」

「・・・その子、赤いマフラー巻いて、赤いワンピース来てた。駅の端に座ってたらくれたんだ。寒そうだからって。」

初恋の話だろうか?

初めて気にかけてもらえて嬉しかったと少年は嬉しそうに言った。


「・・・言われたんだ。綺麗な赤だなって」

「・・・女の子に?」

「通りすがりのおじいさんに。赤は白によく映えるから、綺麗に見えるって。」

「通りすがりのおじいさん・・・」

「いい人だったよ。飲み物くれた。」


餌付けされたみたいだねぇ。

「冷えてたけど。」

「・・・普通は暖かい飲み物じゃないのかな」

「多分、飲みかけだったんだよ。」

「成程ね」

「でね、そのおじさんに名前もらったんだよね。」

「・・・その貰った名前は何かな?」

「考えてってば。色々名前はあったけど初めて名前っぽくきこえたんだ。」

「・・・名前は」

「・・・嬉しかったなぁ。初めてのプレゼントみたいで」

「・・・」


少しでも教える気は無い、と。

不遇な生まれで苦労したのは分かったが、同情しにくいのはなぜだろう。

多分、この少年の性格のせいだろう。


「・・・終わりなのかな」

「あ、話?うん。名前もらってすぐここに来たからさぁ」

少年は、周りを見渡して微笑んだ。白い景色に圧倒されたのか僅かに目を細めて。


「しろ、とか。」

「え?」「名前」


犬じゃないんだからと眉を潜めて否定された。

そこまで安易じゃないと。”通りすがりのおじさん”とやらが真っ白で寒い日につけた名前。


「赤だの、白だの・・・ヒントはないのかな」

「名前の意味がよく分からないから知りたいと思って。」

・・・だったら初めから、そう言えばいいものを。

「クイズの方が考えてくれるかなと」

・・・ま、否定はしない。私は面倒なことはしない主義だ。けれど、名前はその者の生きた証、証明だ。

「名前が分からないと困るんでしょ。」

「君も困ると思うんだけどね」

「人助けだと思って。ね?」


助けて欲しいのは私の方だと思うんだけどね。

「しろ、あか・・・色彩。彩り。」

ヒントは色?


「え?」

「季節的かな?春夏秋冬は長いしなぁ。」

「ブツブツ何言ってるの」



「季節、色彩。・・・四季。・・・しき。」

ピクンと少年が反応する。驚いた、そんな表情をして目の前の青年を見上げた。


「キミの名前は、しき?」

「・・・」

「当たったみたいだね。」

「・・・おじさんがそう言って撫でてくれたんだ。どうして?」

「さぁね。私には分からないけど、四季とは春、夏、秋、冬、四つの季節って意味だね」

「四つの季節・・・」


繰り返し呟き、少年は嬉しそうに笑った。

あまり枚数の無い書類、最後のページに少年の名前を書く。『しき』・・・と。


少年の姿が段々と淡くなっていく。


「ねぇ」

少年が不意に思い付いたように話し出した。

「色んな季節を楽しめって意味かな」

「どうかな」

「女の子、覚えてるかな?」

「君のことを?」

「そう。・・・通りすがりのおじいさんも覚えてるかなぁ」

「君が忘れない限りは忘れないよ。」

はは、と苦笑し、「普通逆だよね」と返す。少年は姿が消えかかっていく。


「お兄さんは?」

「私?・・・すぐ忘れるかな」

「お兄さんらしいなぁ。」

「・・・そうかな」

「・・・ね、いたずらは成功?」

少年、・・・シキは楽しそうに聞いた。僅かに目を細めて。

青年はそれをチラリと見て苦笑して、頷いた。


「ね。ありがとう。」

「何がかな。」

「名前、呼んでくれて嬉しかったよ。」

そうして、シキの姿が散る様に消えた。

**************************************




「・・・本当に疲れたんですが。」

「トリック オア トリート?」


青年が呟くとそれに応えるように少ししゃがれた声が答えた。

その応えに睨むと、その老人は苦笑して目の前の椅子に腰を下ろした。

その姿は、古びた茶色のコートに古びた白い靴、少し白髪の混じった髪が無造作に伸びていてなおさら上から下までボロボロに見える。しかし動きは洗練されたかのように美しく、少ししゃがれた声も耳に優しく聞こる。

「綺麗な子だっただろう?」

「・・・自分を人間だと思ってませんでしたか」

「なあに、些細なことじゃないか。細かいねえ。モテないだろ。」

「余計なお世話ですねぇ。満足されましたか?・・・”通りすがりのおじいさん”?」


クスクス、楽しそうに笑った。笑う姿にも見える少々の気品はどこかの貴婦人のように見える。


「シキ、ですか?」

「真っ白でも鮮やかな、色のある季節を過ごせるようにと。思いつきだよ。」

「会えば良かったのでは?」

「おじいさん、じゃないしねぇ。気まぐれで付けただけだしね。」

「・・・そうですか。」

「そうだよ」


「・・・この部屋、貴方には何色に見えます?」

「・・・白だね。眩しいくらいのね。」


気まぐれでした質問。

あの少年と同じ景色が見えていた、この老人に最後の質問をする。

「お名前は?」

そして答えた名前は、やはりどこか聞き覚えのある名家の名前だった気がしたが、関係なさそうにその優しい少ししゃがれた声でそっとお礼を呟いただけだった。


青年は、淡い光となってな消えた目の前の老人を暫く見送るようにみていたが、静かに立ち上がり、部屋を出ていった。


・・・少々のため息を吐きながら。

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