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Act1・ギルド加入と大陸について

「ん~む……」


俺は自分の手に収まったカードを感慨深く眺める。ライトブルーに彩られたそれにはこの世界の文字でこう書かれていた。



――――冒険者ギルド 会員証 ファーストランク・ クレン 職業・魔術師――――


今、俺の手に収まっている物はギルドカードと呼ばれる物だ。

簡単に言えば会員証だな。


「クレン、ギルドカード眺めてどうしたの?」


「いや、何か感慨深いなあ、と」



俺が立っている場所に近づいてくるフィリスにそう返すと、フィリスは呆れたような表情を浮かべた。


「……それって、ガルーダの死体の山でする事かな」


「普通はしないだろうな。まぁ、俺は普通では無いから大丈夫だ」


「自分で言っちゃったよ……まぁ、いいや。証拠品の回収も終わったし、帰ろうか」


「だな」


返事をして、俺はガルーダの屍の山を飛び降りる。

フィリスは俺が降りたのを確認して、「行こうか」と言って歩き始めた。



「んじゃ、帰りますかね」


俺はそう呟いてフィリスの後を追いながら、一昨日の事を思い出していた。










「ギルドに入りたい?」


「あぁ。何か条件とかいるのか?」



フィリスの街案内を終え、ギルドに帰ってきた俺達はリンドのオッサンにギルドに入りたい、もしくは詳しく知りたい旨を話した。


「まぁ、犯罪者じゃねぇ限り、特にこれといった制約は無いな。基本的に誰でも入れる」


「それは、生まれが判らない奴とかでもか?」


「あぁ、勿論だ。冒険者ギルドってのは力がある奴であれば誰でもいいのさ」


おお、何て俺向きの職業なのだろう。

生まれや育ちが関係ないのはとても助かる。


「ギルドってのはこの街以外にもあるのか?」


「当然だな。この大陸の街になら基本的にどの国でもある。拠点を一つに絞る必要もないから、旅の片手間に依頼をこなす奴もいる」


「よし、入ろう」


「即決なの!?」


身分証明必要なし、旅の片手間に金を稼げる。

この完璧な布陣を前にして加入を恐る理由など無いに等しい。


「旅の片手間に金稼ぎが出来るってのがいいじゃないか。元々、この大陸を旅しようと思ってたしな」


「そうかい、ならこっちとしちゃあ、加入を止める理由は無ぇわな」


「んで、加入するにはどうすりゃいいんだ?」


俺がそう訊ねると、リンドはカウンター席の後ろにある棚から一枚の紙、それとペンとインクを取り出した。

それらをカウンターの上に置くと、リンドは口を開いた。


「ここにお前さんの名前と職業を書く。それだけだ」


「……それだけか?」


「おう。後はお前さんの血判を取って終いだ」


随分と楽な登録だな。元いた世界じゃ考えられない。あっちじゃモノの登録一つにかなり時間がかかるからな……。

俺はわら半紙のような質感の紙に触れながらそう思った。

紙には名前と職業を書く欄があり、その下にギルド責任者の名前を書くスペースがあった。

さて、ちゃっちゃと書きますか、という所でふと思う。


……俺、この世界の文字、書けるのか?


いや、文字読めたんだから大丈夫だろ。

とか思ったけど、そもそも読める事と書ける事は別々のカテゴリだ。

さて……どうするか。


「どうしたの?」


「い、いや、何でもない」


ペンを持ったまま固まった俺を見て首を傾げるフィリスにそう返しながら俺はどうするか悩んだ。

もうペン持ってしまってるから今更『文字が書けません』なんて言えないし、つか言ったら赤恥どころじゃ済まない。



(えぇい、ままよ!)


もう、あれだ、考える事を放棄しよう。

そう自己完結して俺は紙にペンを当てた。








結果。


「おお、随分大陸の文字書くの上手いじゃねぇか、ホントにこっちに来るの初めてなのか?」


「凄い綺麗な字だね」


「……あぁ、そうだな」


何かスラスラと書けた。

悩んでいた自分が限りなくアホに思える。

どうやら俺を転送してくれやがった儀式陣は随分と親切設計だったらしい。

何はともあれ署名は出来たので、後は血判を押すだけだ。


「んで、血判はどこにやればいいんだ?」


「自分の名前の隣にやって来れ。ナイフいるか?」


「いや、要らない」


俺はリンドに返事をしてから自分の人差し指を噛む。

血が出たのを確認して紙に指を押しつける。


「これで完了か?」


「ああ。ギルドカードは明日の夜までには出来る」


「わかった」


俺がうなずいて一息つくと、フィリスが不安げな表情で話しかけてきた。


「クレン、この街を出ちゃうの?」


「ああ、ある程度資金を貯めたらな」


異世界の醍醐味と言ったら、やはり旅に限る。

しかし、俺の答えにフィリスは俯いてしまった。

「フィリス?」


「……あ、何でもないよ!?」


「…?まあ、何でもないならいいが」


「うん。何でもないよ、何でも……」



フィリスはそう言って笑顔を浮かべたが、今まで見てきた中で一番力の無い笑顔だった。


その後、フィリスの様子が変なこと以外特に何もなく一日が終わった。



翌日はギルドカードが出来るまで暇がだったので、昼に街にある本屋にてこの世界の情報を収集することにした。


――――のだが。


「この大陸はの……」


本屋の店主に捕まって、長々と大陸の歴史と常識を叩き込まれることになってしまった。

長い、否、永い……もはや拷問だろこれ、師匠の魔術講座並みに長いぞ。


「その時隣国と和平を結んでの――」


よし、色々と長いので要点だけ纏めよう。



・俺が現在居るのは、イーリア大陸にある四大国の一つ、キルバーン公国である。


・大陸外にも島国や小大陸があり、それらとの貿易が盛んな事。


・キルバーン公国以外の大国は、南のウェンダル王国、東のクーウェイ共和国、北のハイゼン帝国と言う名前である事。因みに現在の各国の関係は良好。


・大陸には魔物が多く存在するため、冒険者ギルドや国の騎士団は一人でも多く人員が欲しいらしい。



ざっとこんな所か。三つに軽く分けてみたが、実際に話しを聞いた俺は話しが長すぎて眠りそうになった。



「お、もう日暮れか」


本屋の店主に捕まって話しを聞いていたらすっかり日暮れ時になってしまった。


「なんつうか、疲れた……」


あの爺さん、長時間喋っててよく喉渇れなかったな…ある意味尊敬できるぞ。


「まぁ、当初の目的は達成した事だし」


帰りますかね。


俺は一つ息を吐いて、ギルドへの帰り道を歩いた。





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