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Act1・ギルドと金なし主人公

「はぁ~…やっと人心地ついた~」


手続きを終え、街に入った途端、フィリスはほっとした表情をした。

因みに、俺の手続きはフィリスが代わりにやってくれた。帰り道で出会った国外から来た旅人、という設定だ。

格好は少々、いや、かなり旅をするには軽装過ぎるが、持っている無駄にでかいカバンのおかげで門番に納得して貰えた。

そうして街に入った俺達はフィリスが『ギルド』なるモノに行って俺と会う前にやっていた依頼の報告がしたいと言ったので、そのギルドに向かっている。


「正にファンタジーだな……」


街の外観を観てポツリと呟く。

地面が剥き出しの通りには、夜も近いというのに露店が開かれ、その合間を騒ぎながら子供が駆ける。近くの家々からは料理の匂いが漂ってくる。

そして通りすがる人々がそれぞれ特徴があった。フィリスの様に耳の長いエルフもいれば、猫耳の人もいる。


「フィリス、ギルドって何処なんだ?」


街の様子に驚きながらもフィリスに訊く。


「もうすぐだよ。この大通りの先にあるんだ」


「へぇ…あ、あの少し大きな建物か」


目を凝らすと、他の建物より少し大きく、目立つ建物が見えた。

壁には巨大な、交差する二つの剣が彫られたレリーフがあった。


「そうそう、あの大きな建物が冒険者ギルドだよ」


「結構目立つな」「まぁ、目印にもなるし、いいんじゃない?」


「確かに」


そんな雑談をしながら人混みを縫うように歩きながらギルドを目指す。


「にしてもなんで日が暮れたってのにこんな人がいっぱい居るんだ?」


「いつもこの時間はこんな感じかな。丁度仕事終わりの時間だし、後は酒場に行ったりする人が大勢」


「何というか……」


俺の居た世界と似てるな。

仕事帰りに一杯ひっかけるのは世界は変われど一緒なのか。

そんな事を考えながら最後の人波を抜け、ギルドの前に辿り着く。


「改めて見るとやっぱり大きいな」


「でしょ?さ、それじゃ入ろうか」


フィリスの先導で扉を抜け、ギルドに入る。

中は凄まじく騒がしかった。ついでに酒臭い。


「酒場も兼ねてるのか、ここは」


「ん~、ギルド兼酒場兼宿屋って所かな」


「欲張り過ぎだろ……」


どうりで人がいっぱいなワケだ。

込み合ったギルドの中を進んで一番奥にある受付のようなカウンターの前に出る。

そこにはガタイの良いオッサンが一人座っていた。


「ただいま、リンドさん」


「おう、フィリスじゃねぇか。ゴブリンの巣、ちゃんと潰せたか?」


「もっちろん!ただ、帰りに盗賊に襲われて……」


「何だと?」


フィリスの話しを聞いてリンドと呼ばれたオッサンの目が鋭くなる。

つーか、俺と会う前に依頼をこなしてたから矢筒に矢が一本も無かったのか。


「それで、危ない所をこの人に助けてもらったんだ」


フィリスが俺を見ながら説明すると、オッサンがこっちを見る。


「そうか……フィリスを助けてもらって、ありがとうな」


「いや、たまたまそこに居合わせただけだったからな……成り行きだ」


「それでも、だ。フィリスはウチのギルドで唯一若い娘なんだ」


「「「私らもまだ若いぞリンドォ!!」」」


オッサンが真面目な顔で話しをしたら、酒場の方から叫び声が聞こえた。


「うるせぇ!そういう台詞は酒飲み癖直してから言いやがれ!……わりぃな、話の腰折っちまって」


「い、いや……気にするな」

「まぁ、そういう事でフィリスはウチのギルド全体の娘みたいな感じでよ。今回の依頼を受けるつった時は全員で止めたくらいだ」


いや、幾らなんでも過保護じゃないか?

しかも全員って。


「そんだけ大事なんだよ、フィリスはな」


「リンドさん……」


フィリスが感銘を受けた顔をする。

それをオッサンが慈しむ様にみている。


「…………」


その家族のような雰囲気に俺は口を挟む事は出来ない。


――――もう戻らない暖かさだと知っているから。



「で、だ。お前さん、名前は?」


考えに耽っているとオッサンがそう訊いてきた。


「クレンだ。一応、旅人をしている」


「そうか。クレン、改めてありがとう」


オッサンはそう言って右手を俺に向けて差し出した。


「……どういたしまして、だな」


俺も右手を出し、握手する。

オッサン……いや、リンドは見た目の厳つさとは逆に義理堅い性格のようだ。

まぁ、嫌いじゃない性格だ。


「んで、お前さんはこれからどうすんだ?宿で泊まんのか」


「あ」


リンドの言葉に俺は今更ながらに気付く。

俺、泊まる所ないじゃん。というかその前に此方の金が無い。


「金が……無い」


「クレン。それはもう詰んだってヤツだ」


「街中で野宿とか……」



ホームレスかよ。ヤバい、想像しただけで泣けてくる。

こりゃ、リンドの言うとうり、詰んだな。


(覚悟を決めてホームレスするか……)


「あ、あの!」


「ん?」


俺がこれからの事を考えていると、唐突にフィリスが声をあげる。


「フィリス、どうした?」


リンドがそう訊くと、フィリスは顔を真っ赤にしながら言った。


「クレン、私の部屋に泊まらない?」



「「「「ブフッ――!」」」」


その発言を聞いた、俺を含めるギルド内に居た人全員が吹いた。


「フィリス、お前何言ってんだ!?」


「だって、命の恩人を街中で野宿させるのは嫌だし……」


「いや、それでもだな……リンドのオッサン、他に何か手は無いのか?」



「……クレン」


リンドに訊ねたら諦めた表情で肩を叩かれた。


「声は抑えろよ」


「アンタは何を想像したっ!?」


「冗談だ冗談。まぁ、フィリスからすりゃ、お礼代わりだろうからな。泊ってやれ……但し」


「但し?」


「フィリスを襲ったら……千切る」


何を……?とは聞けなかった。否、聞きたくない。

リンドとの会話を終えてフィリスに視線を向けると、「ダメかな?」と首を傾げられた。

まぁ、リンドからも後押しされちまったし、ここで拒否しても路頭に迷うだけだしな……。


「わかった。一晩、泊めてくれ」


俺がそう言うと、フィリスは満面の笑みを浮かべた。


「うん!一晩と言わずに幾らでも!」


「いや、それはマズイだろ」


俺がリンドに殺される。


そんなこんなで俺は路頭に迷わずに済みそうだ。





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