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Act2・一難去って

「クレン、これはやり過ぎでしょ……」


「フィリスが本気出せって言ったからだろ……兎に角、治療しちまおう」

呆れるフィリスにそう返し、俺はリブルムの体に手を当て魔力を通す。

今は試合が終わった直後で、あまりにもボロボロなリブルムが心配になったのか、観戦していたほぼ全員が舞台の中心に集まっている。


「やべ、マジで二割くらい折っちった……」


「……因みに、治るんだろうな?」


「まあこんくらいなら余裕だな。大規模な施術はいらないだろ」


魔力による簡単な触診を終えてファルメに返事をする。

二割と言ってもほとんどが綺麗に折れてるから治すのにそう手間はかからないだろう。


「んじゃ、詫びも兼ねてさっさと治療しますか」


「ここで、ですか?」


リブルムのズタボロの状態を見ても怖じ気付くことも無く、平然とした様子でシーラ王女が疑問符を浮かべる。


「ええ。とりあえず、誰かナイフとか、この石畳削れる物持ってないか?」


「ナイフなら、これを」



俺が周りに呼び掛けると、一人の美少年と言っていい程の顔つきの男が俺にナイフを差し出す。

くそっ、イケメンだらけかここはっ!

内心そう毒づきながらナイフを受け取る。


「ありがとう。さて、と全員少し離れてくれ。『陣』を刻む」


俺の言葉に皆が五歩程度下がる。これくらいスペースあれば大丈夫だな。

肩を軽く回してナイフを石畳へ突き立て、動かす。

頭の中に描いた図面を元に魔術陣を形成する。

円を描き、ルーンを刻み、線を引く。

その動作を二回ほど繰り返し、最後に陣の中央に少し大きめにルーンを刻んで完成。


「よし、出来た」


「これは……Lagu(水)とIng(豊穣)のルーン?」


「正解だ、フィリス。Lagu(ラグ)ってーのは治癒の意味も含んでてな。その治癒効果を豊穣、Ing(イング)のルーンで増して、騎士団長さんの体を治すってこった」


「ルーンって組み合わせも出来るんだ」


「だから余計器用貧乏な魔術って言われるんだかな」


勉強熱心なフィリスに答えながらリブルムを陣の中に横たえる。

これで準備は完了。


「あとは――っと」


ナイフを掌に宛がい、そのままザックリと突き刺す。

堰を切ったように流れ出る血を陣に流し込み、全体に行き渡るようにする。

これがまた痛いんだわ、意外と。

最初やった時はそりゃもう泣きましたよ。十歳の子供になんつー事やらせんだこの師匠はと思ったね。

あん時は些細な復讐として晩飯のメニュー、師匠の苦手なものばかりにしたっけな。


「あとは――術式展開、包囲陣解放……起動」



血の流れる手を魔力で止血して、早口に陣を起動させる。

すると、まるでビデオの逆再生のようにリブルムの体から傷が消えていく。有らぬ方向に曲がった手足も少々嫌な音を立てながら再生する。

真っ青を通り越して土気色になっていた顔色も元の肌色に戻る。


「よし、治癒完了っと」


体感で大体二分弱、リブルムの体が完全に元の状態になったのを確認して陣を停止する。


「「「…………」」」


「…ん?」


一息ついてまわりを見ると皆一様に口を開けて沈黙していた。

揃いも揃ってどうしたんだ?そんな餌を待つ雛鳥みたいになって。


「クレン、お前は本当に何者なんだ……?」


「んなもん、決まってるだろ」


ファルメの疑問に立ち上がりながら答える。



「ただの、魔術師さ」










「ふむ、彼なら任せても良いかもしれんな……」


クレン達がいる場所から少しはなれた、城の廊下で国王は顎に手を当ててそう呟く。

その視線の先にはフィリスや愛娘達、それに最近怠惰が目立っている近衛騎士団の兵士たち。

そしてクレンがいた。


「彼……クレン様ですか?確かに調練を怠っていたとはいえリブルム団長を圧倒する腕は確かですが。しかし」


傍らに控えた執事、コートスが苦言を口にしようとするのを手を軽く挙げることで抑えてからシュレイはコートスへと視線を向けた。


「解っているさ。だがな、コートス。国王である私がこんな事を言うのはいかんのだろうがな、彼なら大丈夫だと、そんな勘がするんだよ」


微笑みを浮かべてそう言ったシュレイにコートスは渋々といった表情で頷いた。


「……承りました。クレン様には後ほど話を通して置きます」


「ああ。場所は…書斎で良いだろう」


「承りました」


二人はそう言葉を交わした後、廊下を歩き出す。

穏やかな日が射すなか、シュレイは小さく呟いた。



「さて、彼は受けてくれるかな」







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