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Act2・ちょっとした本気

「行くぞ!」


試合開始と同時にリブルムが肉薄し、木剣を降り下ろしてくる。

それに対し俺は木剣を振り上げて攻撃を防ぐ。


なんだ、


「軽いな、アンタの攻撃」


「何だと!?」


木剣が軋む音を聞きながら俺はリブルムに答える。


「軽い、軽すぎる。剣の振りは力んでて意味ないし、腰の捻りも、背筋の使い方もなってねえ。よくまあこんなんで近衛騎士団長名乗れるな。笑っちまうよ」


「平民の分際で私を愚弄するか!」


「はっ」


リブルムの憎々しげな視線を鼻で笑いながら俺は木剣を手繰り、つばぜり合いを終わらせる。

後方へ跳び、距離を開けたリブルムに対し俺はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「バカにされたくなきゃそれなりの力を見せてくれよ。これじゃ準備運動にもなんねえ」


「この……!」


再度、木剣同士がぶつかり合う。

全く、怠けてるとは聞いていたが、これは幾らなんでも酷すぎるぜ。ミュラ王女…。










「すごいですね…」


観戦用に用意された椅子に座ったミュラ王女がクレンの剣捌きを見て驚きを口にする。

私はまあ、見慣れているので何とも思わない。

けど、


「クレン、全然本気じゃないですよ」


「え?」


何というか、そう。遊んでいるんだ。

あのリブルムっていう、近衛騎士団長で遊んでいるのだ。

本気だったら試合開始の時点で勝敗は決してた筈。


「フィリスさん、それはどういう…」


シーラ王女が口元に手を添えながらそう訪ねてきたので、私は舞台に視線を向き直して、答えた。



「ちょっと前に言ったじゃないですか。『運動にはちょうどいい』って」


リブルム騎士団長が必死の形相なのに対してクレンは笑顔を浮かべている。まあ、笑顔といっても物凄く悪い笑顔なんだけど。

騎士団長の剣閃は鋭く、並の人や魔物なら容易く切り捨てられる程なのだろう。

そんな剣閃を余裕を持ってクレンは防いだり、避けたりしている。


「ではあれは本気では無いのか、フィリス」


「多分、本気だしたらあの騎士団長死ぬ可能性高いですよ?」


「「「は?」」」


王女三人が揃って口をポカンと開く。

幾ら木剣とは言え、中りどころが悪ければ死ぬし、ルーン抜きでもクレンの力は強い。何時だったか、魔物を素手で殴り飛ばしてたし。


「…そう言われると逆に見てみたくなりますね、クレン様の本気」


顎にその細い指を当ててミュラ王女がぼそりとそんなことを言った。

あれ、意外とこの王女(ひと)容赦ない?


「そうね。この際だからその位やってもらった方が…」


「ちょちょちょっと待て、ミュラ!さっきのフィリスの言葉を聞いてなかったのか!?」


「そうよ、流石に死者が出るのは…」


「じゃあ半殺しで」


「「「そういう問題じゃない!」」」


思わず声を揃えてツッコミを入れてしまう。というか王族が半殺しとかいっちゃだめでしょ。


「…はあ、まあでも少し本気を出させる事くらいは出来なくもないですよ」


「そうなんですか?」


「ええ。それにこのままやってても騎士団の人たちのヤジが飛んでくるだけですし」


そう、実は試合開始直後から騎士団の人達がクレンにヤジを飛ばしているのだ。それとなくスルーしてきたけどそろそろ私も我慢の限界だ。

護身用に隠し持っているナイフを投げつけたい衝動を抑え、私はクレンに向かって声を張り上げた。


「クレェェン!」


「おう、どうしたフィリス!」


騎士団長の木剣を軽く受け流しながら、クレンがこっちを見ずに答えてくれる。

私はそれを確認してもう一度声を張り上げる。


「本気だして勝ったら、今度一緒にお風呂入ろう!!」


「「「……はあっ!?」」」


「……」


私の言葉に騎士団長も団員も三人の王女もこっちを見て固まるが、クレンはそうでは無かった。


「……」


無言で肩を震わせながら突っ立っている。

それだけなのに言い様の知れないオーラのようなものを感じる。


「フィリス、それは本当か?」


「うん」


短い問いに簡潔に答えるとクレンは口元を歪め笑い出した。


「ククク…ハハハ、ハーハッハッハッ!!」


そして天を向いてこう叫んだ。

それはもうハッキリと。



「我が世の春が来たあぁぁぁぁ!!」





「フィリス、ちょっとどころじゃ無くなってると思うんだが……」


「……あれぇ?」


もう少し違う事の方がよかったかな?

なんかクレンがルナヴォルフと対峙してた時並の覇気を見せてるんだけど。


「おぉい……騎士団長さんよお……」


「なん…………だ」


クレンに向き直った騎士団長もクレンの異様な覇気に気圧されているみたいだ。


「悪いが俺の崇高なる目的の為に全力で負けてくれ。何、安心しな。体の二割くらい骨が折れるだけさ」


「冗談、だよな?」


恐怖からか、体を震わせる騎士団長にクレンはニタリと笑顔を浮かべ、木剣を構える。

どうしよう、止められる気がしない。


「フィリス、止められないか?このままだと色々と酷いことになるんだが」


「……無理」


「そうか……」


ファルメも私の回答に遂に諦めたようでこれから始まるであろう一方通行の蹂躙を静観するために視線を舞台に向けた。

ミュラ王女とシーラ王女は、何か目をキラキラ輝かせて見てる。

国の騎士団長がボコボコにされそうなのに、それでいいのだろうか。


「さあ!行くぞへっぽこ騎士団長ぉ!!」


「誰がへっぽこ――うぉ!?」



クレンが今までの掴み所のない柔らかな動きから一変し、騎士団長に突撃する。

もちろん騎士団長も持っていた左手の盾で防御した。だがそんな事は関係無いと言わんばかりに力押しで『打ち上げた』。


「防御なんざ無駄ぁ!!ハァーッハッハッハッ!!」



惨い。

クレンは空中で無防備をさらす騎士団長に容赦無く木剣による連打を浴びせる。

騎士団長は成す術なく風に流される枯れ葉のように剣戟をその身で受け止めていく。

身に纏っていた鎧は元の外見が分からなくなるくらいに凸凹にされ、持っていた盾は既に粉砕されている。


「せぇの……」


そしてボロボロの騎士団長が地面に着く寸前、止めの一撃が放たれた。


「ホームラン!」


渾身のフルスイングは綺麗に体の中心に決まり、騎士団長を吹き飛ばす。

数ラーテル飛んだ後、数回のバウンドを挟んで騎士団長は舞台に落ちた。


「…………………」


舞台が沈黙で満たされる。ほんの数秒で起きた一方的な戦いに私含めその場にいた全員が開いた口が塞がらなかった。

そんな中クレンは、自分がやらかしてしまった事に気付き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「やべ、やり過ぎた…」


そう呟くクレンを見て私はこう思った。


……今後、自分の発言には注意しよう。


と……

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