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Act2・闇夜の殺意


「案外近いか…?」


殺気のあった方向を察知しながら俺は夜の王都を駆ける。

感覚から言って宿からそう遠くない距離だ。

王都の地図を思い浮かべながら走る。


「こっちは、スラムか」


このまま行くとスラム街へと突っ込む事になる。噂では結構ヤバイ場所らしい、違法薬物やら奴隷やら挙げればキリが無いとか。


「ま、問題ないか」


そう一人嘯きながらも内心は緊張状態を保っている。先程から感じる殺気の異常性故だ。


「そろそろか」


スラムに突入し、入り組んだ路地を減速せずに走り抜け、殺気との距離がゼロに近付いた。

月明かりが照らす、其処らにゴミや鼠の死骸が散乱する路地裏で、フードを被った何者かが手に持った何処か禍々しさを感じるロングダガーで女性に襲いかかろうとしていた。


「させねぇ……よっ!」



「!?」


Rad(車輪)のルーンを使い即座に女性とフードを被った者の間に入り込み展開した武装でロングダガーを弾く。

今回持ってきたのはフロッティと呼ばれる剣だ。古ノルド語で直訳すると『突き刺すもの』を意味する。

その名の通り突き刺す事に特化した両刃剣で、先端に行くほど剣の幅が鋭くなっている。

長さも然程なく、取り扱いやすく、防御にも向いている剣だ。


「こんな夜更けに何してんだ?」


「………………」


俺の問いに対して距離を取った不審人物は無言で答え武器を構えた。


「血の気が多いな、全く。……なぁ、アンタは大丈夫か?」


そのある意味剛胆な反応に呆れながら、後ろにいる、襲われていた女性に問いかける。


「あ、あぁ。大丈夫だ」



いきなり現れた俺に驚きながらも女性は反応を返してくれた。

こっちに剥き出しの殺意向けてくる不審人物よりかなりマシだ。


「さて、どうする不審人物さん?」


「……っ!」


「っとお、危ねえな」



キンッと音を立ててフロッティと相手のロングダガーがぶつかる。

どうやら退く気はないらしい。まあ、多分まとめて殺そうとか、そう言うのを考えてんだろう。


(スピードも重さもしっかり載せて獲物を振るってるな……こりゃ相当手練れだな)


そんな考察をしながら幾つもの剣閃を防ぎ続ける。

フロッティを使っての戦い方は基本的にカウンターだ。防ぎに徹しつつ、相手の小さな隙を狙って穿つ。

簡単なように見えて結構面倒な戦法だ。


「っ!――っ!」


相手の剣速が速くなるが、俺には特段問題はない。相手が速くなるなら此方も速くするだけだ。


右上腕部、左太股、眉間、首筋、左足首、右肩、下腹部、左胸、頭頂部、人体のありとあらゆる場所を狙ってくる斬撃を流し、受け止め、弾く。


「っ!?」


不審人物が俺の防御に耐えかねたのか、距離を置こうと攻撃の手を止め後ろに跳ぼうとする。


まあ、その隙を見逃す訳にはいかないな。


「貫け、『刺突閃穿(フロッティ)』――」


効果を発動し、俺はフロッティを突き出す。しかし相手との距離が足りない。

普通なら届くことのない距離、だが、効果を発動したフロッティにとってたった数メートルの距離など取るに足りないのだ。

その証拠に、不審人物の左肩を切り裂いている。


原理は簡単だ。不可視の魔力による刃の生成、それによってフロッティのリーチを伸ばしただけのこと。

まあ、持続性は無いから扱いとしてはリーチの短い銃みたいな感じだろう。


「ちっ…!」


左肩を裂いた勢いで不審人物の被っていたマントが外れ、その全貌をあらわにする。

流れるような灰色の髪に整った顔立ち。革の軽鎧に包まれた身体はしなやかで女性特有の丸みがあったがしかしそれらを全て台無しにするような怨恨の篭った金色の瞳が此方を凝視していた。


「……手の内は終わりか?」


「……」


俺が問いかけると、不審人物はロングダガーを腰の鞘にもどした。


「……次ハ、殺す」


そんな一言を残して不審人物は常人じゃあり得ないような跳躍力で背後の建物の屋根に跳び移り、走り去っていった。


「…ったく、何なんだありゃ」


先程までの刃の打ち合いが嘘だったかのような静けさのなかそう呟く。


「あ、あの…」


「っと、怪我は無いか?」


「あぁ、問題ない…すまない、助かった」


振り替えると、女性が腰が抜けたのか地面に座り込んでいたので、手を貸して立ち上がらせる。


「どういたしまして、だな。にしても何でこんな所に?その格好からみるに、ここの人間じゃないだろ」


女性の格好はどちらかというと、今俺達が宿を借りている、平民が住んでいる区画でよく見掛ける、麻布のシャツにズボンという出で立ちだ。

さらに重ねていうと、立ち姿から何と言うか、威厳を感じるのだ。

容姿も整っていて、月明かりに照らされた濃紺の長髪は輝いて見える。殊更、こんな所にいる理由が解らない。


「それは、だな…」


「まあ、言いにくいことなら言わなくていいさ」


「すまない…」


「気にすんな。…さて、こんな所に長居する必要も無いし、家まで送ろうか?」


この場から退散する為にそう告げると女性は急にあたふたし始め、何事かをブツブツと呟く。

正直に言おう。ある意味奇怪だ。

こういう時はそっとしておくのが一番だ。

暫く待っていると女性はバッと顔を上げ、必死そうな表情を浮かべてこう言った。


「一つ頼みがある!」


「あ、あぁ。なんだ?」


「今日だけでいい、私を匿ってくれ!いや、ください!」


「…………は?」


いや急に何言い出してんのこの人。

急な提案というかお願いに少し混乱する。

とりあえずは理由を聞かなきゃ始まらないな…



「えぇと、何でだ?もしかして、実はやんごとなき家柄の人で、周囲に黙って家を抜け出して来ちゃったとかじゃないよな?」



「……正解だ」


「そうだよな、違うよな、良かった良かった、ってはあぁぁぁ!?」


荒唐無稽な俺の推測がまさかの的を得ていた……てことは何か?俺はそんな高貴な家のお嬢様を一日匿わなきゃいけないと?

女性を今一度見ると、必死の表情で俺の返事を待っている。

…うん、もうどうにでもなれ。


「はぁ、分かった。一日位なら匿ってやるよ…宿だけど文句言わないでくれよ」

俺が若干の開き直った態度でそういうと、女性の表情が一気に明るくなる。

…何故だろう後光が射しているように見える。

寝不足のせいだな。そういう事にしよう。


「ありがとう、本当にありがとう!」


「ああ、いいよ。そんくらい。ほら、宿まで案内するから着いてきな」


というかこの女性、幾ら助けたとはいえ見ず知らずの男に一晩匿ってくれって頼むか普通。

まあ、細かい事は気にしないようにしよう。



「ところで、つかぬことを訊くけど」


「なんだ?」


「アンタの家ってどこら辺?」


「私の家か?私の家は……彼処だ」


俺の問いに女性は徐に都市の中心部、王城を指差した。

いやまさか…な。


「…なあ、もしかしてアンタの家って……」


「うむ、城だ。そういえば自己紹介がまだだったな。私はキルバーン公国第三王女、ファルメ・リーゲルハイド・キルバーンだ。よろしく頼む」


「…………ついてねぇ」



自己紹介を聞いて俺はため息を吐きながら夜空を仰ぐ。


……とんでもない拾い物しちまったな、こりゃ…

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