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Act1・邂逅

「う――ここ、は?」


肌寒い感覚に意識が覚醒していく。

どうやら気を失っていたようだ。辺りの暗さから夜だと判断できる。

重い瞼をこじ開けると、そこには美少女がいた。


さらさらと風に靡く金髪はポニーテールに纏められている。そこらのモデルと遜色ないレベルの身体には何かの皮で出来ている軽鎧を纏っている。そして腰には折り畳み式の弓と、何故か空の矢筒。

そして顔付きは――


(超、どストライク……!)



小顔で少し垂れ気味の瞼の奥にはサファイアブルーの瞳。

とにかく、可愛いさと綺麗さがバランスよく同居している。

そして何より目を引くのが、長い耳だ。


金髪に長い耳。恐らくファンタジーでお約束の種族、エルフなのだろう。


(この子が俺を召喚したのか?)



そう疑問に思いながら少女を見ていると、目が合った。


「君は――誰?」


澄んだ声で少女が訊いてくる。

興味と不安が半分半分の表情で。

俺はその問いに少女を見据えて答えた。


「俺はクレン。アンタは?」



「私は、フィリス。フィリス・レティナ」


「フィリス、ね。覚えた。んで、アンタの後ろに要るのはお仲間さん?」


俺がフィリスの後ろを指差すと、彼女が振り返って「あ、忘れてた」と呆けた声で言った。

ボロッちい服を着て、手に錆び付いた剣を持った男が五人そこに居た。            

「えと、私今追われてて……」

「追っかけてきた奴が、コイツら?」


確認を取ると彼女は此方に振り返ってブンブンと首を縦に振った。

見た感じ、盗賊っぽいな……。

男たちは、揃ってハッとした顔をしてから此方を睨み付けてくる。



「テメェ、何者だ?!」


リーダー格っぽい奴がこちらに向けて叫んでくる。

あ~、個人判断が面倒だからリーダー格から順にA、B、C、D、Eと認識しよう。


「何者だと言われてもな……ただのしがない魔術師だよ。で、アンタらは盗賊か何か?この娘がアンタらに追っかけられてるって言ってんだけど」



「テメェには関係無ぇ話だ」


「ガキはスッ込んでな」



俺が訊くと、そう口々に言われる。

話しを聞かない大人ってこれだから……。


「スッ込めって言われてもなぁ。女の子一人、野獣五匹の前に置いて逃げるわけにもいかねぇしな」


そう言いながら少女をちらりと見る。

うん、物凄く不安そうな顔。見捨てるワケにはいかないね。

さっき確認したけど、どうやらこの世界にも魔力はあるみたいだし、戦闘はこなせる。


「誰が野獣だゴルァ!」


「調子乗るんじゃねぇぞ!」


「このクソガキが!」


「ぶっ殺してやる!」


「逃げんなら今の内だぜぇ」


ぶっ殺すって言われた後に逃げんなら今の内言われてもな……。

つか、


「さっきからグダグタうるせぇんだよ。来るならさっさと来いよ」


いい加減話が進まないし。


俺がそう思いながら盗賊達の所へと歩いていくと、五人が一斉に襲いかかってきた。


「「「「「このガキゃあっ!!」」」」」


「ハァ……Eh(駿馬)」


そのタイミングに合わせてルーン魔術を発動する。

刻まれたルーンはEh(エフ)。意味は馬。効果は、加速。

俺は右から攻めてくる盗賊Aに狙いを定めると一歩踏み込む。

それだけで俺は相手の懐に到達する。


「は……?」


「呆けんなよ。Ur(力)」

続けて取り出すのはUr(ウル)のルーン。効果は単純に身体強化。

ルーンによって強化された拳で盗賊Aの鳩尾を殴る。

その反動を生かして正面の盗賊Bの顎を蹴りあげる。

そのままの勢いで身体を捻りながら移動、右の盗賊Cの背後に回って捻りの勢いを殺さぬまま顔の側面に裏拳を当てる。

残りは二人。半歩程離れた位置にいる。


「疾……!」


タンッ


爪先で地面を蹴る。その動作一つで俺の身体は残った二人の間に到達する。

右側の『未だ空中を飛んだまま』の盗賊Eの胸部に掌底を打ち込む。

即座に手を引いて左側に立つ盗賊Dの顔面を、


「ラストッ」


殴り付けた。

そのまま少し溜めを作ってから、拳を振り抜く。



「ぐべぁ!?」


すると盗賊Dが数メートル程吹っ飛んだ。


「ふぅ。迎撃完了」


俺がそう言って発動したルーンを解除すると、盗賊達が地面に落下した。



「「「「「ごふっ!?」」」」」


それぞれが何が起きたのか判らないといった表情で身体の痛みに悶える。

まぁ、手加減は相当したから死にはしないだろう。


「逃げんなら今の内だぜ?」


言われた事をそっくりそのまま返してやると、盗賊達は呻きながらも起き上がった。



「畜生、覚えてやがれ!」



盗賊Aが此方を睨み付けながらそう言ってから盗賊達はそそくさと森の中へと逃げていった。

足音が完全に遠くなったのを確認して、俺はフィリスと名乗った少女へと振り向く。


「ふぅ…終わったぞ、ってどうした、そんな呆けた顔して」


「えっ、と……何をしたの?」


「何って、殴って蹴っただけなんだが」


「一切見えなかった……」


そりゃ、ルーンで加速したからな。

俺は未だに呆けたままのフィリスの横を抜け、放置したまんまのカバンを取る。


「やっぱ重い……」


どっか落ち着いた場所で整理した方がいいな。

あの師匠の事だ、適当にブチ込んだだけかもしれない。


「あ、あの!」


カバンを持ち直すと、フィリスに声をかけられる。


「ん?」


「さっきは、その……ありがとうございました!」


「気にすんなって。身体慣らすには丁度よかったし。それに、可愛い女の子助けんのは男の役目ってね」


「か、かわっ……!?」



俺の言った言葉に何故か顔を赤くする。


「どうかしたのか?」


「い、いえ、オキニナサラズ!」


「お、おう」


何なんだ、一体。

まぁ、いいか。彼女も気にするなって言ってるワケだし。



「しっかし、どうするか……」


改めて辺りを見てみると、ここが森だという事が分かる。

そこに夜という要素が合わさっているため、動くのは得策じゃない。

この森の規模がどの程度のモノか判らない以上、下手に動けば遭難する可能性が高い。

せめて地図があればいいんだが。


「なぁ、フィリス」


「は、はい!?」


「何をそんなに驚いてんだ?まぁいい、地図持ってないか?」


「えっと……持ってないです」



訊くと、フィリスは申し訳なさそうな表情で返してくる。


「マジか……詰んだな」



異世界来たってのに早速遭難か?

いや、でもUr(力)のルーンで身体強化して、ジャンプすれば森の外が見えるかもしれない。

あぁ、でも夜だと見えづらいか。


「えと、ちょっといいですか?」


「何?」


「私、見た通りエルフなんで森を抜けられるかもしれないです。後、最寄りの街が拠点なんでご案内しましょうか?」


「この森から抜けられるのか?」


「はい、でも朝にならないと動けないですね」


「だろうな」


月明かりに照らされた中で会話をする。

ただやっぱり寒い。


「さみぃな。火でもつけるか」


「あ、薪いります?」


「いんや、コイツ一つで十分」


俺はズボンからルーンの刻まれた石を出す。


「それは?」


「ルーン文字……まぁ、少々特殊な文字を刻んだ石さ。これ一つあれば朝まで持つだろ」


俺はそう投げやりに説明した後、魔術を発動する。


「Ken(炎)」


そう発動キーを告げて石を地面に置くと、焚火程の炎が上がる。


「これ、どうなって…魔法?」


「魔法じゃなくて魔術な。まぁ、その話はおいおいするとして、アンタは先に寝な。随分疲れてるみたいだしな」


「ですが……」


「あぁ、後敬語は止めてくれ。なんかむず痒い」


「……わかった」


「それでいい。寝るなら火の近くでな」

「うん……」


俺がそう言うとフィリスはおずおずとこっちまでやってくる。

っと、これじゃ地べたに寝かせることになっちまうな。


「わるい、地べたに寝かせる処だったな。ちょっと待っててくれ」


俺はフィリスにそう告げて傍らにあるカバンを開けて中身を漁る。

多分、師匠が入れてくれてると思うんだよな……。


「わかったけど、どうするの?」


「何、防寒具位は用意してやんないとなってな。お、あったあった」


カバンの中に目的の物があったので、それを引っ張りだす。


「……それは、何?」


「収納用の魔術が込められた鉄のカード」

答えてから俺はカードに向かって出したい物を念じる。


すると、『ぼんっ』という音と共に有るものが現れる。

それは、サバイバー(家なき人)には必須のアイテム。


「寝袋だ」


「寝袋?」


「デカイ毛布みたいなもんさ。入る時は足からいれてな」


俺が黒い色の寝袋を置いて指を差すと、フィリスは小首を傾げながらも寝袋に入った。


「わっ、温かい……」


全身入りきってから、フィリスは心地よさそうな顔になった。


「そいつは良かった。寝ずの番は俺がしとくから、ゆっくり休みな」


「でも、クレンだって疲れてるんじゃ…」


「疲れきった顔してる女の子に寝ずの番をさせる程、俺は鬼畜じゃねぇよ。いいからさっさと寝とけ」


火を見ながらフィリスに投げやりに返事をする。



「あの……クレン」



「何だ?心配しなくても寝てる間に襲ったりはしないぞ」


「そ、そうじゃなくて……えぇと、その……ありがとう」


その言葉にフィリスを見ると、安心しきったような笑顔を浮かべていた。


「っ――!さ、さっと寝ろ!明日は案内してもらうんだし」


俺は何故かフィリスの顔を見ていられなくて視線を火へ戻した。


「うん……おやすみ」


「ああ」


………………寝たか。


「ふぅ……」


溜め息一つ吐いて、夜空を仰ぐ。

何というか、異世界来て直ぐハプニングとは……


「ツイてねぇ……」


それでいて、最初に出会ったのがフィリスで良かった。

さっきの盗賊達が異世界での最初に会った人間だったら間違いなく俺は連中を殴り飛ばしていた。

眠っているフィリスの顔を見る。

いい夢でも見ているのか、笑顔だ。


「ったく」


何で見知らぬ男の前でそんな表情で寝られるんだろうか。

盗賊達から助けたとはいえ、俺が連中と同じタイプの男だったらどうするのだろうか。



「まぁ、考えても仕方ねぇか」



そう小さく呟いてから、俺はカバンを漁る。

取り出すのは親指の先程の大きさの石とナイフ。

異世界に来る前の戦争と先刻の戦いでもう手持ちのルーンが少ないので補充をするのだ。

夜が開けるまでの暇潰しにもなるし、丁度いい。


「さて、やりますか」


フィリスの寝息をBGMに、俺は石にルーン文字を刻み始めた。





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