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Act1・出立の時

月日というのは案外過ぎるのが早いようで、アークエネミーの襲撃からもう一ヶ月半経とうとしていた。

その間、街の復興は恙無く進み、今ではすっかり元の状態に戻っている。



「……よし、こんなもんか」



元居た世界から持ち込んだ、謎の収納力がある鞄に荷物を詰め込み終え、一息つく。

漸く上り始めた朝日が窓から射し込み部屋を照らす。

今日は前々から準備をして来た旅に出る日だ。


「にしてもまぁよく入る鞄だよな」


確実に許容量オーバーの量の荷物を突っ込んでいるのにも関わらず真っ黒の革製鞄は多少膨らんだだけでまだまだ入りそうな余裕を見せている。


「ま、多少整理もしたからかな、っと」


鞄を背中に背負い、バランスが悪くないか確かめてから俺は部屋のドアを開けた。


「……」


部屋を出る前に振り向いて短い期間ではあるが世話になった部屋に一礼する。


「……よしっ、行くか」



頭を上げて、俺は部屋を出た。外ではもうパートナーが待っているだろうから。










「クレン、遅いよ!」


「悪い、荷物が多くてな」


「もう今日は出立の日なんだからシャキッとしないと」


ギルドの外に出るとそこには既に俺と一緒に旅に出るパートナー、フィリスが荷物を地面に置いて立っていた。

フィリスは元々、他のギルドメンバーから旅に出る事は反対されていたんだが、まあ、脅――説得して俺と同伴することになった。その時の様子は……後で語るとしよう。


「シャキッとしろって言われてもな…まあ、いいや取り敢えず行こう」


「何だか締まらないような気がするけど…」


俺の言葉にフィリスは溜め息を一つ吐き、荷物を持ち上げ、北門がある方へ歩きだした。

肩を並べて朝焼けに染まる街並みを眺める。


「短い間だったけど、この街には世話になったな……」


あの日、この世界に無理矢理転送された時、フィリスと出会い、この街に来ていなかったら存外寂しい異世界探訪になっていた事だろう。

街のヒトは皆一様に明るく、どこの者とも知れない俺に優しく接してくれた。

思えば、一番世話になっているのはフィリスだ。右も左も解らない俺に色々と教えてくれ、今はこうして旅に一緒に来てくれる。


「なぁ、フィリス」


「ん?何か忘れ物?」


「いや、そうじゃなくてさ……その、ありがとうな」


「え?」


フィリスのキョトンとした表情を見て恥ずかしくなった俺は顔を背ける。

「クレン、今なんて?」


「な、何でもないから気にすんな」


フィリスはそう訊いてくるが、からかうような声音から聞こえていたのは明らかに解る。


「えぇ~、気になるな~」


「聞こえてて言ってんだろそれ」


「ばれた?」


「ばればれだ」


そういって頭を軽く小突くと少し舌を出してエヘッとか言ってフィリスは笑った。

無駄に似合うからなにも言えない……やったのが師匠なら確実にミョルニルで叩いてたのに。


「ったく…ん?」


フィリスの笑顔に軽く溜め息を吐くと、正面に見知った顔が居るのに気づく。


「オッサン」


「いい加減、リンドと呼んでくれ……」


俺が呼ぶとリンドのオッサンは肩を落としてそう言った。


「で、リンドさんはどうしてここに?」


「フィリスまで俺の呼び方についてはスルーか!?……まぁ、見送りみたいなもんだ」


「わざわざ悪いなオッサン」


「旅立ちの前に再起不能にしてやろうか?」


俺の言葉にオッサンはどす黒いオーラを纏い始めたので大人しく降参する。


「悪い悪い、降参だ」


「お前さんは本当調子者なのか何なのか分からなくなるな」


そんな雑談をしながら俺達は門へと向かっていった。









門についた俺達は駐屯している門番に旅に出る旨を伝えると門が開くまでの暫くの間、門の前に立って待っていた。


「いよいよ、か。お前さん達が居なくなるとは寂しいもんだな」


「一段落ついたら戻って来るから、そう寂しがんなよ」


「お土産、一杯持って帰ってくるから!」


「ハハ、期待して待ってる事にしよう」


フィリスの笑顔に吊られてオッサンも笑う。

一頻り笑った後、オッサンは俺の肩を叩いた。それもかなり強く。


「痛って、んだよリンドのオッサン」


そういってオッサンの顔を見ると真剣そのものの表情だったので、俺も表情を引き締める。


「フィリスの事……宜しく頼むぞ」


「言われなくても――」



俺はオッサンの手を払ってニヤリと笑って見せた。


「魂が粉々に砕かれても守り抜くって誓ってんだ」


「ハッ、上等だ。言ったからにはやり遂げろよ」



「当然」


そう言い合って腕と腕を軽くぶつけ合う。

フィリスが訳が解らないって顔をしてるけど、今はスルー。これは男同士の大切な話だからな。











それから暫く、会話も無く待っていると、門が派手に軋みながら開き始める。

それを見ながら荷物を担ぎ直し、後ろに立つオッサンに振り返る。


「んじゃ、行ってくるわ。土産期待して待ってろよ!」


「リンドさん、行ってきます!」



「おう、行ってこい!!元気でな!」


俺達の言葉にそう返したオッサンに、街に背を向け二人揃って歩き出す。


「クレン」


「ん?」


「行こっか」


「あぁ、行くか……首都マルギアに」




さあ、旅を始めよう。

俺の異世界の物語を。



題名をつけるなら、そう。




『俺と魔術と異世界譚』




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