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Act1・宴と予定と


「おら、呑めや食えや笑えや喜べやあぁ!!」


「だぁもう、耳元で喧しい!!」


時間は夜。あの後直ぐに街の人々総出で宴の準備に取り掛かり、中央広場にて宴が始まった。

日暮れ前に始まった宴は夜となった今でも勢い衰えず。


「そう言うなっての、クレン」


「そうそう、美人三人に囲まれてるんだから少しは喜んだら?」


「あんたら全員酔ってなかったら喜んでたろうよ」


未だに酔っ払いが増産されていっている。

因みに現在俺が相手してるのは以前、俺が初めて街に来たときにリンドにどやされた三人の猫人(フェルパー)だ。

確かに三人共美人に類する顔立ち、体つきだが、度を越える酒臭さが見事にそれをダメにしている。

宴が始まってからこっち、この三人やギルドメンバー、街の人々に絡まれたり、感謝されたりでゆっくりと飯を食べる暇すら無い。

つーか、今更だが何で事が終わったその日の内に宴会しようなんて思えるんだろうか。

ポジティブ過ぎるだろ……否、恐怖心を払拭するためか。


「というか三人共。頼むから離れてくれ。酒臭すぎて酔うわ」


「「「胸を当てている事はスルー!?」」」


悪いな。フィリスの正面抱き着きを体験した今の俺にはそれは通用しないのさ。

むすっとした表情を浮かべる三人に軽く謝りながらその場を離れる。

大人数に囲まれた時間が長く、人酔いを起こしたみたいだ。


「あ~…」


気だるさを感じながら、俺はギルドの方向へと歩き始めた。

目指すは部屋のベッド。

今の俺には休息が必要だ。










方々の体で帰ってきた部屋のリビングには先客が居た。


「あ、クレン。おかえり」


「ああ」


まあ、先客と言ってもフィリスなんだが。

フィリスは座っていたソファから立ち上がると、蝋燭の灯りを横切ってこちらに歩いてきた。


「なんだか、顔色悪いけど大丈夫…?」


「人酔いを起こしたみたいでな…」


「そういえば、人混みが苦手なんだっけ」


そう言いながら納得したような表情を浮かべたフィリスに連れられ、部屋の真ん中に置かれた少し大きめのソファに並んで座る。


「っだあぁ…疲れた……」


「宴会、どうだった?」


「どうも何も、そこかしこで呑めや食えやのドンチャン騒ぎだったよ」


「そっか……」


「……」


「……」


フィリスの言葉を最後にお互い沈黙してしまう。

産まれてこの方十九年、女の子のこんな状況なった事など一度もない俺はどんな話題提起をすればいいから分からない。


というか沈黙したせいで変な緊張感が発生して、話しかけ辛い。


「フィリスは…宴はどうしたんだ?」


とはいえ、このまま黙っているのも難なので、無難な話題を上げる。


「私もクレンと似たような理由かな。始まってからずっとギルドメンバーに話しかけられ続けちゃって……」


「成る程な、俺と一緒だな」


「クレンも話しかけられ続けたの?」


「主に酒臭い三人にな」


俺の言葉の差す人物達が誰なのか即座に思いついたのかフィリスはあ~…と苦笑いを浮かべた。


「確かに、それは酔っちゃうね」


「だろ?」


おどけたように相槌を打つとフィリスがクスクスと笑う。

吊られて俺も笑う。

一頻り笑いあった後、フィリスが聞いてきた。


「…クレンは、さ。これからどうするの?」


そう聞いてきたフィリスの表情は何処と無く不安気に見えた。

俺はソファの背凭れに腕を掛けて答えた。


「取り敢えずは街の復旧作業手伝って……それから旅の準備して、街を出るから。向こう一ヶ月はこの街に居る」


「そっか…」


再びの沈黙。しかしそれはさっきまでの緊張感を持ったものでは無く、どこか心地良いモノだ。

蝋燭の火が揺れ、俺とフィリスの影がそれに倣ってゆらゆら揺れる。

そんな、穏やかな空気の中フィリスが口を開いた。


「……ねえ、クレン」


「ん…?」


「私も、クレンと一緒に行っても良い?」


そう言ってフィリスは俺の顔を見つめてくる。

俺としては、心の許せるパートナーが居ることになるから願ったり叶ったり何だが。


「リンドのオッサンとかに止められないか?」


あの若干過保護入ったギルドメンバーの事だから色んな理由つけて止めてきそうだ。

その言葉にフィリスはうぅ、と唸ると、


「な、何とか説得してみる!」


そう言って拳を固める。


「あ~、じゃああれだ。オッサン達を説得出来たら一緒に来るって事で」


「うん、頑張る!難だったらセイクリッド・ラインで――」


「待て、それは街が確実に終わる」


あんな高威力の魔法使ったら街の四分の一が炭化する。

つか躊躇い無く使用宣言するフィリスが怖い。


「……ダメ?」


「いや、普通に考えてダメだろ」


俺が即答すると、フィリスは残念そうに、「口で説得するしかないか~」と肩を落とした。

セイクリッド・ラインやるの冗談じゃなかったのか?俺が止めなかったら本気でやる気だったのか?


「ま、暫くはゴタゴタするから、説得すんなら少し落ち着いてからだな」


「は~い」



そして、話に一段落ついた頃。

俺が眠気に抗うように欠伸をするのと同時、フィリスがふと思いついたように声を上げた。


「クレン」


「んあ?今度は何だ」


俺はもはや眠気に負けてそのまま寝落ちしそうな意識の中、フィリスに視線を向けると、フィリスはニコニコ笑いながらこう言った。


「一緒に寝よ?」



…………………………………………ハッ!?


今、フィリスは何て言った?

あまりに眠かったので良く聴こえなかったぞ…一緒に寝よう何て聞き間違えたぜ…。


「今…何て言った?」


「一緒に寝よ?」


「…………」


再度そう言い放ち、首を傾げるフィリスに先の言葉が聞き間違えではないと認識する。

拝啓、師匠。

俺は今日死ぬかもしれない。無論、死因は恥ずか死。


(いや待て俺。ここは拒否った方が得策じゃないか?)


混乱し始めた頭の中で理性がそう告げる。

確かに今の俺では何か色々不味い事しそうで危険だ。

よし、ここは拒否ってさっさと寝よう。


そう心に決め、口を開いた次の瞬間。



「クレン……ダメ、かな?」



フィリスの一言に全俺が粉砕された音が聞こえた気がした。



その後の事は良く覚えていない。

うん、朝生まれたままの姿のフィリスが隣で寝ていた事なんて俺は覚えてない。




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