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Act1・帰還


「クレン!」


降り注ぐ光の粒子の中、フィリスが駆け寄ってくる。

俺はミストルティンを元のチェーンに戻してその声に応える。


「フィリス」


「アークエネミーは…」


「見ての通り光の雨になって死んだよ」


俺がそういいながらふと笑うと、フィリスは顔を俯けてぷるぷると震え出す。


「フィリス?どうかした――」


「やったあ!私達勝ったあ!」


「どわっ!?」


心配になって声を掛けた矢先、フィリスが弓を投げて抱きついてきた。

自分の武器投げ捨てていいのか?というか胸が当たって――っ


「生きてる!私達生きてるよ!クレン!」


「あ、ああそうだな!喜びを分かち合いたいのは解るが取り敢えず離れような!」


でないと俺の精神がヤバイ。

何、初依頼の時は大丈夫だっただろうって?

あの時は依頼の期限がヤバかったし、背負った状態だったから何とかなったんだよ。

現状の方がヤバイだろ?真っ正面か美少女が満面の笑みで抱きついてきてんだぞ?

俺じゃなくても精神(ライフ)ガリガリ削られるだろ。


「うぅ、ホントに良かったぁ……」


肩を掴んでやんわりと離すと今度は泣き始めた。その実、生きるか死ぬかの瀬戸際に立っていたんだ。緊張から開放されて今になって恐怖感がきたんだろう。


「ああ、ホントに良かった」


降り頻る光の雨のなか、俺は泣き笑いをするフィリスの頭を泣き止むまで撫でた。


これにて戦闘終了(フィールド・クローズ)、さて帰ったらのんびりとしますか。










……そう思っていた時期が俺にもありました。



「おぉ!!英雄だ!英雄が帰ってきたぞおぉ!!」


「だ、ちょ、待て!待ってくれ、落ち着けええぇ!!」


泣き止んだフィリスを連れて街へ戻り、一応の避難場所である中央広場へと向かった俺達は早々に住民達に囲まれた。


「アークエネミーを倒したんだよな!凄すぎだぜ!」


「んなもん、まぐれだよ、まぐれ」


俺がそう言ってギルドメンバーの一人(名前忘れた)に答えていると、肩を叩かれた。振り向いた先にはリンドのオッサンとフィリスが居た。


「まぁ、まぐれだろうが奇跡だろうが、魔物だろうがアークエネミーだろうが、お前さんが街を、街の住民を救ったのは事実だ。こっちとしちゃ感謝してもしきれん」


「……そう言われて悪い気はしないが」


「皆、私と一緒で死ぬかもしれないって思ってたから……余計に嬉しいんだよ」


そう言うとは先程の事を思い出したのかフィリスは恥ずかしそうに頭を掻いた。

なんだろう。このフィリス、酷く庇護欲が刺激されて仕方ない。


「さて、事後処理云々は後回しにして、だ」


そう前置きしてリンドは声を張り上げた。


「お前ら!今日は宴だあぁ!!」



「「「オオォォォ!!」」」



晴れ渡る空の下、生命の歓喜が響き渡った。










数日後、キルバーン公国国王は自身の執務室で手に持った紙を見ながら呆然としていた。


「こんな事が有り得るのか……?」


その紙にはこう書いてあった。



クアリアの街における、アークエネミー襲撃の被害



死者・無し


軽傷者・三十六名


家屋倒壊数・二十


街外壁結界・第三段階まで破損


尚、アークエネミーは消滅。

討伐者は二名のみ。



要約され、簡潔にそう書かれた文面を改めて見て、国王はただ一言呟いた。


「荒唐無稽過ぎる…」



自国の事なのだから、本来なら手放しで喜べる程なのだが、事が事だけに素直に良かったと言えない。


元来、アークエネミーは自然災害と同系列の扱いだ。

人が竜巻や地割れ、はたまた嵐などに成す術が無いのと一緒で、アークエネミーに関しては長年、撃退(対策)は出来るが討伐は出来ないものとされてきた。


そこに、今回の討伐者二名が現れた。


国王は軽く痛み始めた頭を押さえ、溜め息を吐いた。


アークエネミーという災害を退ける力を持った存在が、この国ひいては世界にとって吉となるか否か。

それが気掛かりだった。







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