Act1・天光の御柱
「なんだ…ありゃ」
街の住民の避難を指示していたリンドは外壁の向こう、アークエネミーが居ると思われる場所から見えた光景に口を開けた。
何故なら本来、超重量級であるアークエネミーが紙くずのように宙に飛んでいるのだから。
「■■■■■■!!?」
挙句の果てにはアークエネミーの悲壮感漂う鳴き声の後から魔法と思われる光の奔流がアークエネミーに叩きつけられ、さながらお手玉のように地上へと戻される様が見えたのだから、開いた口が塞がらない処か塞がるのを拒否するくらいの驚愕だ。
街の住民達もその様子を見て一様に沈黙する。
そして、魔物が外壁に隠れて見えなくなった直後。
光の柱が天へと登った。
「師匠。あれは?」
「…ただの魔力の奔流、ではないな。神性が混じっている」
アークエネミーが撃破された場所から遠く離れた森から覆面を被った何者かが、同じく覆面を被った何者かの問いに答える。
問うた者は声からしてまだ若い女で、問われた者はその体格、低い声音で男と判断できる。
「神性って…じゃあ、もしかして」
「恐らく、三百年振りの『稀人』だ」
女の驚いた声に男は表面上淡々と答えた。
その視線は霧散していく光の柱へと固定されていた。
同刻、キルバーン公国、王城内にある大会議場は騒然としていた。
「これは…まさか」
荘厳な衣装を見にまとった壮年の男、キルバーン公国国王、シュレイ・リーゲルハイド・キルバーンは会議場の中心にある水晶が映すものに目を見開いた。
会議場内にいる国王と同じ年齢層の者達も事態の大きさに似たような反応を示す。
水晶が映し出した映像は、クレンが放ったミストルティンの一撃が光の柱となりアークエネミーを打ち抜く様だった。
水晶という媒体を通してですら感じる圧倒的なまでの魔力。
このような、荒唐無稽な光景を巻き起こせるのは歴史上、たった数名しかいない。
「『稀人』だというのか…?」
国王は騒ぐ大臣達を落ち着けながら思考する。
アークエネミーを屠りさった者が、果たして戦乱をもたらすのか。
或いは……
後に『天光の御柱』と呼ばれたこの光景は、後世へと語り継がれる物語の始まりとなった。
その光はあまりにも美しく、雄大で。
自由気儘な姫君も、義賊の長も、流麗な騎士も、引きこもりの魔法使いも、最強を誇る戦士も、そして、世界を憎む者も総からくその輝きを見、あるものは歓喜し、あるものは不安に駆られ、あるものは憎悪を膨らませた。
世界は、仮初めの平穏を終えようとしていた。




