Act1・プロローグ・フィリス編
短めです
『過ぎた文明の発展は世界を滅ぼす』
そう人々に忠告したのは何処の学者だったか。
鬱蒼と生い茂る夜の森を走りながら思い出す。
私の名前はフィリス。フィリス・レティナ。
種族はエルフ。職業、冒険者。
容姿は、自己判断だけど、悪くないと思う。
母親譲りの少し垂れぎみの瞼が少々コンプレックスだが。
髪は金髪。運動の邪魔にならないよう後頭部に一纏めにしてある。
スタイルもそれなり。
腰には折り畳み式のコンポジットボウと矢筒を下げてある。
で、今現在私が何で森の中を全力疾走しているかと言うと。
「ひひひ、待ちな嬢ちゃん!」
「逃がさないぜぇ」
「もう、最悪……!」
盗賊に追われているからである。
相手の人数は五人。対して此方は一人。しかも遠距離狙撃を念頭に置いた武装なので、圧倒的に不利。
(あぁ、依頼で矢を使いきんなきゃ良かった……)
丁度、ギルドからの依頼で低級モンスターのゴブリンの巣を壊し終え、矢筒の中身をスッカラカンにしてしまったのだ。
自分の間抜けさに呆れながら走り続ける。
もう、どこに向かっているのかも判らない。
「とにかく、身を隠せそうな場所に……」
そう呟いて茂みを飛び越えると、開けた場所に出た。
大体半径300ラーテル(メートル)位の、円形の空間だった。
「何、これ……」
そしてその中央には一枚の巨大な石板が鎮座していた。
苔が所々付着していて、相当な年数ここにあった事を物語っている。
石板には精巧緻密な魔方陣が重なりあうように幾つも刻まれていた。
「……はっ」
そうだった、私は今追われている最中なんだった。
思わず呆然としてしまった。
複数の足音がこちらに向かってくるのが聞こえ、私は急いで石板の方へと向かった。
体の疲労が強く、思わず石板に手を付いた。
「はぁ、はぁ……まずい、体力……限界…ん?」
俯いて呼吸を整えようと深呼吸をしていると、手を付いている石板から違和感を感じた。
「え……?」
顔を上げて石板を見ると、魔方陣が輝いていた。それは、この石板に刻まれた魔法が起動する証。
「え、えぇ!?」
って、ちょっと待って、何で勝手に起動してるの!?私魔力込めてないよ!?
そう困惑している内に魔方陣は輝きを増していく。
『外界位相、同期完了。ゲート安定。同期位相魔方陣内の物質転移準備完了』
「何、何が起きるのよ~!?」
「見つけたぞっ!って何じゃこりゃあ!?」
『転移開始』
盗賊が此方に気づくのと同時、魔方陣だけでなく、それを刻まれた石板が目を開けていられない程強く輝いた。
私はすかさず目を腕で隠す。
「うおっ!?」
「ぎゃあぁ、目があぁ!?」
「くそっ、何だってんだよ!」
後ろに居た盗賊達は突然の光に何人か目を焼かれたようだ。
かく言う私も至近で強烈な光が炸裂した為、意識が明滅する。
『――転移完了。術式自動崩壊を開始』
そして、永遠に続くかとも思えた光が、無機質な声と共に消える。
未だにチカチカする瞼を上げるとそこには。
「う――ここ、は?」
さっきまであった石板が消え、かわりの様に一人の青年が立っていた。
全身を黒い、素材の判らない服で固め、傍らには何を詰め込んだのかパンパンに膨らんだ大きなカバン。
顔は整っていて、少しつり上がり気味の目の奥にある瞳の色は黒。
髪は項程まであり色はくすんだ赤色乱雑に切ったのか髪型はボサボサだ。整えるべき所を整えれば間違いなく美形だろう。
そう分析していると、青年と目が合った。
そんな彼を見て、私は状況を忘れて訊ねた。
「君は――誰?」
彼との出会いによって私の人生に大きな変化が訪れるとは、この時、思ってもいなかった。