Act1・滅剣、終端
ほぼ音速の領域に達した俺は勢いをそのままに身体を捻ってダーインスレイブとミョルニルを魔物の腹めがけて全力で振り上げた。
フィリスの牽制に気をとられていた魔物は反応することが出来ずに攻撃を受ける。
肉を刃が切り裂き、鎚が潰す。
「っおぉぉぉぉ――」
そこから全身に力を込めて、魔物を打ち上げる!
「らあぁぁぁぁ!!」
骨がへし折れる感触を感じながら真上を見ると、
「■■■■■■!!??」
妙な鳴き声を上げながら空へと飛んでく魔物が見えた。
さて、追撃はフィリスに任せるとして。
「フィリス、あと頼む!」
「頼まれた!」
心強い返事を聴いてから、俺は切り札を使うための準備を始めた。
「それじゃ、派手にいこうか!」
クレンに追撃を頼まれた私は弓に矢をつがえ、魔力を込める。
先程クレンに言った私なりの魔法だ。
母さん曰く、精霊との直接的契約がうんたらかんたら。
よくわからなかったけど、上手く使えてるみたいだから問題ない。
今からやるのは、その私なりの魔法のなかでも現時点で最高威力のモノ。
「祖は古き御代より連綿と続きし荘厳なる輝き」
詠唱しながら矢を連続して、一定のテンポで魔物へと放つ。矢に纏わせた『衝撃』の付与魔法で魔物が更に打ち上がる。今の私の実力ではこの技の本当の威力は出せない。けど……
「祈らば来たれり、天上の灯火」
これが私の今だから。
「祝詞紡ぐ我に応えるならば、此処にその力を具現せよ!」
合計十六本の矢が魔物の躯体を貫き、その頭上で静止する。
「射抜け!天帝の雷!」
全ての矢を繋ぐように魔力による陣が描かれ、その中から眩い光が溢れ出す。
光の正体は望外なまでの魔力の奔流。
その標的を魔物へと定め、私は発射の合図の手を振り上げた。
「セイクリッド・ライン!ッ!」
瞬間、魔方陣から弾ける様に閃光が迸る。
「■■■■■■■――!!!」
魔物へと直撃したそれは勢いを衰えさせることなく魔物を地面へと向かわせる。
中級モンスターなら五十匹まとめて駆逐できる威力の魔法でもアークエネミーは耐えていた。
「っ、クレン!準備は!?」
その事実に自分の実力の無さを痛感しながらも、私はクレンへと叫ぶ。
すると、魔物の真下に陣取ったクレンから威勢のいい返事が返ってきた。
「Just Rock!準備万端、行くぜ!!」
と。
私はそんなクレンの返事に、妙な安心感を覚えた。
「Just Rock!準備万端、行くぜ!」
そう自分に活を入れ、頭上へと落ちてくる魔物を見上げる。
俺の足下には即席で作り上げた魔術陣が魔力を送り込んだ事で紫の光を上げている。
陣の中央、丁度俺の真下には一文字のルーンが刻まれている。
Eoh(死)のルーン。
効果は推して知るべし。
一応、攻撃系ルーンの一つではあるが、他の攻撃系ルーンと違い、速攻性は無く、今みたいに魔術陣を使用しないと発動しない。
更に面倒なのが、『発動した魔術陣内に存在する、殺傷能力のあるモノで発動者が対象に魔術陣の効果範囲内で攻撃すること』がこのルーンの発動条件と、使う場所を選ぶものなのだ。
元居た世界でも、二回しか使ったことがないくらいの限定条件。
まあ、でも死のルーンだけあって効果の強さはピカ一だ。無機物だろうが有機物だろうが文字通り死なせる。
「こっから先はお前次第だ…」
そう呟いて俺は左腕を引く。
腕に装備された、少しゴテゴテとパーツが付いた剣がガチャリと音を鳴らす。
元の世界において、男のロマンと呼ばれた兵器、パイルバンカー。
俺はそれを神話の兵器に実装し、実現した。
……我ながらなにしてんだろうか。
「まあ、いい。勝てば官軍だ」
兵装に魔力を装填して、効果を発動するタイミングを見計らう。
フィリスの砲撃が霧消するように消え、魔物が重力に引かれ落下するスピードを上げる。
「カウント」
呉
肆
参
弐
壱
零。
「ぶち抜け、滅剣!」
タイミングを完全に合わせて、剣を魔物の腹部に突き刺す。
即座にルーンの効果と槍の効果を発動する。
「聖樹・宿木の剣!!」
ドゴンッ!と爆発音が響いて、腕からルーンの即死効果を纏った剣が射出され、魔物の躯に大きな孔を穿ち粉砕する。
そして許容量を大幅に越える魔力を叩き込まれた魔物はその肉体を光に替え、爆散した。
街一つを掛けた、少数での対アークエネミー戦は、クレン達の勝利で幕を閉じた。