Act1・巨獣の遠吠え
「………………」
夜の闇に染まる草原を一つの影が駆ける。
それはこの世界における、『龍』と呼ぶには余りにも小さい。
しかし、獣と言うには巨大過ぎる。
月の明かりも無い暗闇の中、『それ』は四つの足で力強く地面を蹴る。
それだけで地面は抉れ、衝撃の余波でまわりの草は根本から吹き飛ぶ。
『それ』の走る速度は更に加速し、もはや人の目に映る事は叶わない。
やがて、小さな丘の上にたどり着いた『それ』は足を止める。
辿って来た道には草木の一本も残らず、土が剥き出しになっていた。
「…………」
『それ』は眼下に見える草原のその先、遥か彼方にある小さな明かりを捉えると呻き声をあげる。
「■■■■―――」
大きく裂けた口端から涎が滴る。
紅蓮に輝く眼は見開かれる。
脳髄にあれは、あの小さな光こそが食材だと信号が送られる。
漆黒の毛を全て立たせ、足に力を込める。
喰らえ。
食め。
噛み砕き、引き千切り、切り裂き、磨り潰して喰らえ。
喉が渇くなら血を啜れ。
腹が減るなら肉を喰え。
獲物は目の前にある。
安心しろ。それでも尚、餓えが絶えずとも。
イクラデモカワリハアルノダカラ
「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!」
『それ』は天を仰ぎ吼える。
紅き眼に輝きを湛え、鋭い牙を涎で濡らし、吼える。
正にそれは狩りの始まりを告げる狼煙。
『狂狼王・ルナヴォルフ』は遠吠えを終えると再び闇へと身を躍らせる。
災厄を携えて。
ただひたすらに、クアリアの街へと――。




