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俺はフェリーから降りていた。
『式部島』という島がある。薪島からフェリーで三十分ほど離れた小さな島。
式部島は元々薪島と一緒の島だったけど、三百年ほど前の地震の影響で二つに分かれてしまったらしい。
学割のきく定期船フェリーに乗って、式部島の港にたどり着く。
(草薙は『式部島』か。アイツ、結構遠いところから通っているんだな)
フェリーから降りた俺の前には、薪島よりさらに田舎の光景が広がっていた。
人口は五百人ほどの式部島は、薪島よりずっと狭い。
小さいころ、何回か来たことあるけれどすごい田舎だったのを覚えている。
学ランのまま来た俺は、カバンにグレー色のクマのぬいぐるみを入れていた。
(さて、草薙はどこだろう?)
草薙の顔を思い出して、俺の胸はどこかざわついていた。
フェリー乗り場を出ると小さな駐車場に出ていた。
車があまり止まっていない駐車場。キョロキョロしながら歩くと、一人の若い男が向かってくるのが見えた。
英語の文字が書かれたシャツに短ズボン、金髪で背の高い男が、俺の顔を見るなりまっすぐ歩いてきた。
「君は、薪島中の生徒かな?」
いきなり、日本語で俺の方に声をかけてきた。やや落ち着いた感じの声で、俺に言ってくる。
「はい、薪中っス」
「聞きたいことがある。薪中のセーラー服を着た、長い髪の女の子を見なかったか?
『草薙 弥生』、という子だけど……」
その名前を聞いた途端に、俺ははっと驚いた顔を見せた。
「えっ、俺も草薙を探しに来たんです」
「な、なんと!」
なぜか、向こうはオーバーアクションでのけぞっていた。
あからさまに驚いた金髪青年を、俺は不思議そうな目で見ていた。
「弥生が……信じられん……」
「あの……あなたは誰ですか?」
「申し遅れたが、僕は『草薙 駿』だよ。弥生の兄だ、君は?」
「俺は、『志田 勇太』っす。で、草薙さんはなんでいなくなったんスか?」
「うん、それなんだが……学校から帰って部屋に入ってから、しばらくして血相を変えて出て行ったんだ」
駿さんは手でリアクションをつけて話してくれた。
「血相を変えた……まさか?」
「何か忘れ物をしたとか……で、慌てて家を出て行った」
「そうか」
弥生がいなくなった理由だけは、すぐに分かった。
「では、弥生をお互い探しているのなら手分けして探そうじゃないか。
僕は山の方をあたってみるので、志田君は海の方をお願いできるか?」
「えっ、分かりました」
「お願いする。何かあったら連絡してくれ。これ、俺の携帯の番号だから」
そういって駿さんは俺に電話番号らしきメモを渡して、軽快な足で奥に見える山の方に走って行った。
残された俺は、難しそうな顔で首を傾げていた。
「携帯の番号って、なんだ?」
そこにだけ疑問が残った。