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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
1章:初めての恋
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俺はフェリーから降りていた。

『式部島』という島がある。薪島からフェリーで三十分ほど離れた小さな島。

式部島は元々薪島と一緒の島だったけど、三百年ほど前の地震の影響で二つに分かれてしまったらしい。

学割のきく定期船フェリーに乗って、式部島の港にたどり着く。


(草薙は『式部島』か。アイツ、結構遠いところから通っているんだな)

フェリーから降りた俺の前には、薪島よりさらに田舎の光景が広がっていた。


人口は五百人ほどの式部島は、薪島よりずっと狭い。

小さいころ、何回か来たことあるけれどすごい田舎だったのを覚えている。

学ランのまま来た俺は、カバンにグレー色のクマのぬいぐるみを入れていた。


(さて、草薙はどこだろう?)

草薙の顔を思い出して、俺の胸はどこかざわついていた。

フェリー乗り場を出ると小さな駐車場に出ていた。

車があまり止まっていない駐車場。キョロキョロしながら歩くと、一人の若い男が向かってくるのが見えた。

英語の文字が書かれたシャツに短ズボン、金髪で背の高い男が、俺の顔を見るなりまっすぐ歩いてきた。


「君は、薪島中の生徒かな?」

いきなり、日本語で俺の方に声をかけてきた。やや落ち着いた感じの声で、俺に言ってくる。

「はい、薪中っス」

「聞きたいことがある。薪中のセーラー服を着た、長い髪の女の子を見なかったか?

『草薙 弥生』、という子だけど……」

その名前を聞いた途端に、俺ははっと驚いた顔を見せた。


「えっ、俺も草薙を探しに来たんです」

「な、なんと!」

なぜか、向こうはオーバーアクションでのけぞっていた。

あからさまに驚いた金髪青年を、俺は不思議そうな目で見ていた。


「弥生が……信じられん……」

「あの……あなたは誰ですか?」

「申し遅れたが、僕は『草薙 駿(しゅん)』だよ。弥生の兄だ、君は?」

「俺は、『志田 勇太』っす。で、草薙さんはなんでいなくなったんスか?」

「うん、それなんだが……学校から帰って部屋に入ってから、しばらくして血相を変えて出て行ったんだ」

駿さんは手でリアクションをつけて話してくれた。


「血相を変えた……まさか?」

「何か忘れ物をしたとか……で、慌てて家を出て行った」

「そうか」

弥生がいなくなった理由だけは、すぐに分かった。


「では、弥生をお互い探しているのなら手分けして探そうじゃないか。

僕は山の方をあたってみるので、志田君は海の方をお願いできるか?」

「えっ、分かりました」

「お願いする。何かあったら連絡してくれ。これ、俺の携帯の番号だから」

そういって駿さんは俺に電話番号らしきメモを渡して、軽快な足で奥に見える山の方に走って行った。

残された俺は、難しそうな顔で首を傾げていた。


「携帯の番号って、なんだ?」

そこにだけ疑問が残った。


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