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それから、四時間後。学校では、期末試験が始まった。
さらに、四時間後。一日目の、期末試験が終わった。
今日はあいにくの曇り空。試験が終わって学校を出て商店街を歩く俺。
そんな俺の体は、商店街から学校を目指して走っていた。
学ランを着た俺は、通学カバンを持って息を切らして汗を激しくかきながら走っていた。
ようやくついた学校の校庭を、素早く駆け抜ける。
試験期間中の学校は、午前中で生徒たちは大半が帰っている。
故に、学校に人はほとんど残っていない。
俺は、それでも静かな校舎を駆け抜けてたどり着いたのが、
「やっとついた、俺の教室」
乱れた呼吸で、誰もいない教室が目の前に広がっていた。
この教室は、数十分前まで試験会場になっていた俺のクラス。
俺は、真っ直ぐに自分の机の中を調べてみた。そしてあった。
「ふうっ、ようやく見つけたぜ」
それは、朝に鰹じいから渡された買い物のメモ。
海の男でもある鰹じいは、今頃海で漁をしているはず。買い物を忘れたら一大事だ。
ほっと胸をなでおろし、俺は流れる汗を拭いて静かな教室を見回した。
(今日は、きれいだな……ん?)
そんな時、俺は偶然にも前の席でグレーの物体が床に落ちているのを見かけた。
俺は気になってグレーの物体に近づくと、それは購買のパンぐらい小さいクマのぬいぐるみだった。
「学校にグレーのクマのぬいぐるみ?あっ、足の裏に何か書いてある」
クマのぬいぐるみの両足の裏には、文字が書いてある。
左足には、筆記体のアルファベットで『K,YAYOI』。
右足には、『3.9』と書かれていた。
俺はすぐさま近くにある教壇の方に向かう。
教壇には座席表が書いてある。
「『K』で『YAYOI』……あいつか」
俺は、そこである人物の名前が思い出された。
それは普段おとなしい長い髪の少女『草薙 弥生』。
「試験の時に、ぬいぐるみって見つかるとまずいんじゃ。
こっそり返してやるのが一番か。名前まで書いてあるから、大事なモノみたいだしな」
クマのぬいぐるみは、少し色落ちしていて縫ってあった箇所も見える。
丁寧に手入れされて、大事に使われているのが分かった。
さらに教壇の机の中には、クラスの連絡票が書いてあった。
生徒全員の住所と、電話番号が書かれた表から『草薙 弥生』のものを探し出す。
「住所は『式部島…』、あいつ式部に住んでいるんだ」
俺はちらりと、グレーのクマのぬいぐるみを見た。
そのぬいぐるみは、とてもかわいらしく健気に笑っていた。