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翌朝、というよりまだ周りは薄暗い。
港の近くの高台にある一軒家、それが俺の家。
薄暗い俺の部屋は、小さな部屋。ボーダーのパジャマ姿で、俺は机に頭をつけていた。
試験勉強で、いつの間にか学習机の上で寝ていた俺はぼんやりと目を開けていた。
昨日は、姫子にいろいろ教えていて自分の勉強があまりできなかった。
視界がおぼろな目を開け、机の蛍光灯の明かりだけで探したものは置時計。
俺はその時計が『AM4:15』を見たとき、あっという間に目が覚めた。
「いけねえっ!忘れていた!」
思わず大きな声を上げたとき、後ろの戸がタイミングよく開いた。
「もう終わっておる、勇太」
そこには、オリーブ色の長袖のシャツを着た老人が入って来た。
手には大きな網を持って、白髪交じりでしわの深い顔は俺をまじまじと見ていた。
「鰹じい、ごめん」
「ようやく起きたな勇太。メシの用意ができているぞ」
「あっ、うん……」
そういうと老人は厳かなオーラを出したまま、部屋を出て行った。
その老人は、俺の中では師匠と呼べる存在だった。
部屋を急いで出て、寝癖のついた短い髪を手で梳かして、たどりついたのが居間。
畳張りの部屋で、真ん中にテーブル。
テーブルの上には、朝食とは思えないほどの食事があった。
大皿にトンカツが山盛りで置かれ、ほかにもいくつもの小皿が置かれている。
もう一度いうけど、これは朝食だ。
「さあ、食うぞ。もうすぐ漁の時間だ」
そこには、さっきの老人が不愛想な顔で座っていた。
彼の名は、『志田 鰹』。俺の祖父だ。でも『鰹じい』と俺は呼んでいるが。
この家には、俺と鰹じいの二人だけになっていた。
元々はこの家で俺の両親や兄貴、ほかにも多くの親戚が住んでいた。
だけど薪島には漁業と観光以外のめぼしい産業はない。
そんな薪島に住んでいた若者たちは、島離れをして本土に住むのは必然な流れだった。
当然のことながら俺の両親や親戚も、全て本土に移り住んでいる。
でも、俺だけはこの家に残った。
エビ漁をしている鰹じいの姿を幼いころに見た俺は、それ以来ずっと憧れていたから。
「すまない、鰹じい。期末試験の勉強で……」
「男は、二度も言い訳するな。勇太、お前は若い。
若い時の時間は、もっと大事にしろ。若い時の時間は貴重だけどたっぷりある」
鰹じいは七十超える老人にも関わらず、脂っこいトンカツを朝から食べていた。
年甲斐もなくすごい食欲だ。俺も席についてご飯を食べる。
「何を見ている、勇太」
「いやあ、相変わらず食べっぷりが、すごいなって……」
「それより、今日は夜まで海にいる。勇太、買い物を頼まれるか?」
鰹じいはズボンのポケットから取り出した、買い物のメモを俺に渡してきた。
俺は、その買い物のメモを受け取った。