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翌朝、少し遅くて今は朝七時ぐらい。俺は家の外にいた。
鰹じいは今日、漁がないので家にいた。
一軒家を出て見える朝日は、地平線を軽く超えて明るかった。
俺は鰹じいに頼まれて新聞を取りに外にいた。
黒の薄いパジャマ姿で、過ごしやすい暑さの中、ポストに行き新聞を受け取った。
この新聞は、諸島限定の地方新聞。
一般的には日本の国がどうたらというものよりも、薪島と式部島を含めた諸島だけで発刊される新聞。
全国紙と違いローカルネタが多いのが特徴。
新聞を手にして戻ろうとしたとき、ふと何気なく新聞の一面を見た。
それを見た瞬間、俺の顔はあっという間にひきつった。
立ち止まった俺は新聞を広げて文字に注目した。
一面には『フェリー座礁事故』と書かれていた。その路線は、
「昨日夜九時の、薪島~式部島区間」と書かれていた。
そんな大きな声を上げた俺に気づいたのか、家から出てきたのが憮然とした顔の鰹じい。
「何している、勇太。騒々しい」
「あ、あ、あっ……」
青ざめた顔で新聞を見ている俺に、鰹じいは背中をバンと強くたたいた。
もちろん頭によぎったのが弥生の顔。
「な、何をしている、勇太!」
「鰹じい、大変だ!俺の知り合いが、この定期船に……」
そういいながら、鰹じいが渡された新聞を読むとすぐに顔を上げた。
慌てる俺に鰹じいは冷静に新聞をよく見る。
「『フェリー座礁事故、全員無事、奇跡の船長』と書いてあるぞ。何が、大変だ?」
「えっ?」俺はよく新聞記事を見ると、確かに鰹じいが言っていたその言葉が書かれていた。
「フェリー座礁事故は、よくあることだ。どうせ、浅瀬の岩にひっかけたんだろう。
このあたりは、フェリー事故も多い。あまり慌てることもない」
「そう……だな」
「それに、漁師を目指す人間が船を岩にこすっただけで、大慌てしたら身が持たんぞ。
世の中というものは、興味を引くために小事も大事に様に仕立てる」
鰹じいの言葉は、真理をついていた。
でもなんか胸の中ではなんだかモヤモヤしていた。
(おかしい、ならばどうしてこんなに心細いんだ?)
俺は、胸の高鳴りを抑えることができなかった。
そして、その日の弥生は学校を休んでいた。
それは、ある悲しみの物語の始まりでもあったから。




