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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
三話:初夏の思い出
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夜九時のフェリー乗り場、時間はどんなところでも平等に進む。

閑散とした港は夜ともなると人気も少ない。

周りにほとんど人もいないフェリー乗り場に、俺は弥生と一緒にいた。


朝は姫子の理不尽な呼び出しにむっとしていた俺も、いつの間にか笑顔になっていた。

弥生は、恥ずかしそうに笑顔を見せてくれた。

俺はこんな人間らしい弥生が見たかったんだ。やっぱり弥生の笑顔はかわいい。


「勇太、ありがとう。そしてごめんなさい」

「ううん、俺が勝手に好きになっただけだから」

「私、もっと勇太のことが知りたい。恋愛って、相手を認めることだって兄さんが言っていた」


ほんの二時間前になった、新しい恋人の弥生。

胸に手を当てて、俺を見る目は今までの無感情な弥生ではない。

今まで近くにいても、弥生のことを恋人として意識しなかった。

ただ笑顔が見たいだけで、俺は弥生のことを連れ回していただけだった。

でも弥生も俺のことを想ってくれた。それがとてもうれしかった。

いとおしい新しい恋人に、俺は少しさびしそうな顔を見せる。


「もう、出るんだよな、フェリー」

「ごめんね、私は式部島だから」


弥生は、恨めしそうに乗り込む小型のフェリーを眺めていた。

式部島と薪島、フェリーで十分ほどの距離なのにそれが遠くに切なく感じる。それが恋なのか。


「でも、弥生。明日も学校だから、また会えるし」

「うん、それまで我慢する」


今まで、見せた事のない弥生の笑顔に俺はドキドキしっぱなし。

キュートで自然な弥生の表情は、俺の心を癒してくれた。

そしてその表情の弥生は、俺を上目遣いで見てきた。


「あのね……勇太」


すると小さなウサギのぬいぐるみを両手に抱えた弥生が、俺の方に顔を赤くして見ていた。

向き合う俺は、緊張した顔で少し背の低い恋人の顔を見ていた。


「弥生、どうした?」

「勇太、私も好き。でももっと知りたいしい、好きになりたい……」

「弥生……もちろんだ」


そういって、俺は弥生の小さな体を抱きかかえた。

か弱く、小さな弥生の体を抱き寄せると俺の胸が落ち着いていた。

弥生もまた安らかな顔を浮かべていた。

そして弥生の腕には、小さなウサギのぬいぐるみ。

俺が初めての彼女に送った、プレゼント。


「今度、私も勇太にプレゼントする」

「弥生?」

「ウサギは、寂しがり屋だから、死んじゃうから、お揃いのウサギ。勇太のウサギを買ってあげる」

「ああ、ありがと」


その会話はとても自然にできた。

笑顔を見せた弥生は、今まで見たどの顔よりもかわいらしかったから。

そのまま弥生は、フェリーに乗り込んでいく。


「それじゃあ、またね」


弥生は手を振って、俺に応えてくれた。俺もまた、手を振った。

汽笛が鳴り、フェリーに乗り込んだ弥生。

岸から遠ざかっていくフェリー、俺は何度も手を振った。


「明日、学校で!」


それは、俺が一番大きな声で叫んでいた。


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