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姫子は、おせっかいだ。でも、イイヤツだ。
俺は、姫子に最後背中を押されて、その姫子と別れた。
雲にかかる夕焼けを見ながら山登り、空には星空が……見えない。
ぶあつい雲が空を覆いで、雨が降りそうな天気に俺は弥生を連れて公園に来ていた。
あれから数時間、薪島で一番高い山の頂上付近にある公園で俺と弥生は歩いていた。
時間は、あまりない。弥生の乗る定期船は、夜九時に最終便が出ることになっていた。
「星、出ていないね」
姫子と別れた後、俺は弥生を誘ってここに連れてきた。
前に弥生は、「星が見たい」といったので、この場所に連れてきたけれど雲に覆われていて星が姿を見せない。
「本当だったら、今頃の季節は天の川が見えるんだけど」
「曇っていても、空は空だから」
弥生は、ずっと暗い空を眺めていた。
この公園は、夜にもなると人も少ない。
元々住宅街にあるわけではない自然の公園で、山の頂上付近にあって天気がいいと本土が見えることもあった。
薪島隠れデートスポットで、姫子が初めて告白した場所。
「なあ、弥生……」
「なに?」真っ暗な空を見上げていた弥生は、俺の方に顔を向けていた。
「弥生は、『天の川下り』でグレーのテディベアを流したんだな」
「初めての恋、流したの」
そんなうつむく弥生の顔は、どこか苦しそうだ。
きっとあの時の恋愛は、思い出すだけで辛いのだろう。
「その恋を……俺では、これでは代えられないだろうか?」
そういって手渡したのが、商店街で買ってきたウサギのぬいぐるみ。
ピンク色のウサギのぬいぐるみは、笑顔で元気な顔を見せていた。
「ウサギ?」
「ああ、ウサギってなんか、こっちの方がかわいいかなって」
「いいの、私に?」
「ああ、やるよ。商店街でも見ていたしな。それに……」
「ありがとう、勇太」
「弥生は、今好きなやつっていない……よな?」
俺は言った。弥生のお礼に言葉をかぶせるように。
俺が手渡したウサギのぬいぐるみを、嬉しそうな目で見ている弥生。
ぬいぐるみを持つ弥生は、難しい顔を見せて何か考え込んでいた。
俺は弥生の顔を心配そうに見つめた。
ドキドキする、胸の高鳴り。じらされていて、もどかしい。
じらしたのち、弥生はようやく口を開いた。
「あのね。私、最近日記つけているの」
「えっ?」質問と違う言葉で、俺は戸惑っていた。
頬を赤くした弥生は、ウサギのぬいぐるみを大事そうに手に持っていた。
「日記?」
「うん、日記。初めてつけたのが、七月一日。その日は、期末試験の日でした」
「えっ、それって……」
「勇太が、初めて私に声をかけてくれた日。勇太が、テディベアを届けてくれた日。
その日から、私は日記をつけているの。あっ……」
弥生は何かを思い出してかわいらしい声を漏らす。
弥生が俺の名を呼んでくれたことに、俺は顔を赤くしてしまう。
同時に心臓が狂ったかのように激しく鼓動していた。
前にいる弥生も、顔がさらに赤くしていた。
「や、や、弥生……」
「あの日から、私の中で変化があったの。
真っ暗な夜の闇に閉じ込められた私の空が、かすかに曇りが晴れて少しの星が見えた小さな変化」
そう弥生が言うと、ウサギのぬいぐるみを大事そうに両手で抱きかかえた。
今までで一番俺は、この時が緊張していた。
その日の夜空はまだ曇っていた。




