23
商店街は日曜の賑わい。
人があふれる商店街で、雲の隙間から漏れる木漏れ日が明るく照らしていた。夜には、雨が降るらしい。
道の端にあるベンチで俺は姫子と向き合っていた。
一緒に来た弥生は、タイヤキを買いに行っていた。
俺は顔を近づけられた姫子に顔を赤らめていた。
「えっと……」
「草薙さんといるときに、胸が苦しいでしょ、気になるでしょ、草薙さんの笑顔が見たいんでしょ。
もう決まっているじゃない、恋をしているの」
「俺が、恋?」姫子の言葉に、明らかに恥らう俺。
「そうよ、告白した?」
姫子の『告白』という言葉に、俺は猛然と首を横に振った。
弥生に告白、恥ずかしくてできないぞ。考えるだけで俺は顔が赤くなった。
「いい。あなたが草薙さんと一緒にいると、どういう変化があるのか考えてみて。
草薙さんと一緒にいることで、あなたを変化させているんだから」
「あのなぁ、そういわれても……」
それでも、今まで弥生と話をし始めた二週間を振り返った。
始めは、一人でいる弥生がかわいそうだった。
でも最近は弥生といると、俺の心が和むのが分かっていた。
弥生がいない風景は寂しくて、いるのが当たり前になっていた。
授業中もずっと弥生を見ていて、急な誘いにあちこちに連れ回して、それでも弥生はついてきてくれた。
それにちょっとずつだけど、弥生のいろんな感情も見れた。
「俺は、弥生が好きなんだな?」
「ようやく気づいたのね、おそかったじゃない」
姫子は、腕組みしたまま答えた。
覚悟を決めた顔の俺は、前にいる得意げな顔の姫子は俺の胸に手を当てた。
「胸が痛くならない、苦しくならない?」
「ああ……なんか欲しくなる」
「そうよ、それが恋だから。やっと勇太もあたしと同じ痛みを知ったのよ」
姫子は、いたずらっぽく笑った。
その時に見た姫子は、ちょっぴり大人に見えた。
「姫子……」
「勇太は、ずっと恋人ができないって心配していたのよ。
先輩とつき合うときも、自分だけが幸せでいいのかって後ろめたかった。
あたしと一緒にいることで、女子たちが敬遠して、勇太は一人になったらどうしよう……て」
「大げさだな、姫子は」
俺が冗談半分で切り返そうとしたとき、俺の手を姫子がつかんできた。
でも姫子の目は潤んでいた。
「冗談じゃないわよ……バカ」
うつむいたまま、泣き出しそうな姫子に俺は自然と手が出た。
大きな姫子の頭を撫でてやった。
(そっか、そうだったんだ)
それと同時に、姫子に感謝の気持ちがあふれていく。
「俺の方こそ、感謝しないといけない。俺だけじゃあ、恥ずかしくて気づけなかったから。
だから姫子……ありがと」
姫子は、軽く目をつぶって俺に笑顔を見せた。
いつもの姫子の顔に戻って、俺の手を強い力で引っ張った。
手を引っ張られる俺は、困った顔に変わっていく。
「じゃあ早速、行きましょう。草薙さんに、告白の準備をしないとね」
「こ、告白って……」
「あたしね、明日先輩にプレゼントを渡すの、なんでだと思う?」
「えっ、先輩の引退だから?」
「明日はね、先輩に初めて告白した日。告白一周年記念日だからなの。
だから勇太も今日、草薙さんに告白しなさい。
夏の告白はとても成功しやすいの。これ、あたしの法則。それともう一つ」
そういい、人差し指をたてて俺に笑顔を見せていた。
俺は、どこか可愛らしく見える幼なじみに手を引かれてベンチを立っていた。
「恋愛はね、『大好き』を何回言えるかが大事よ。その数だけ、恋は実りやすいの。
向こうがその気がなくても、『大好き』にはそういう魔力があるんだから。さ、行くわよ」
姫子の笑顔にはなんだか説得力があった。
そして、俺は姫子に導かれるまま商店街へと向かう。
タイミングよく、弥生がタイヤキ買って戻ってきた。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと用があるから草薙さんそこで待っていてね」
姫子の言葉に、タイヤキをもった弥生はコクリと頭を下げた。
俺はなんだか少し恥ずかしそうな顔で弥生を見ていた。




