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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
三話:初夏の思い出
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あれから三十分後、俺はようやく洋服店から解放された。

商店街の賑わいを見ながら歩いていた俺は、疲れた顔になった。

姫子は結局青いシャツとパーカーとズボン、八千円近く使っていた。


お昼の時間帯、商店街は混んでいた。

この島唯一の商店街ともなれば、日曜日に人が集まるのも納得できた。

行き交う人は多く、ご飯時ということもあって商店街の食事処はどこも混んでいた。

だから俺の手にはすし屋で買った、島寿司のパックを片手に歩いていた。


「このキンメが、いいんだ」

茶色な金目鯛の切り身が乗った、島寿司を口に入れてほおばった。

甘辛いたれが口の中に広がって、海の光景が広がるぐらいうまい。

俺の大好物、薪島の名産でもあるし鰹じいがよく食わせてくれた。


「あっそ」と姫子。

菓子パンを買っている姫子や弥生と別に、すし屋の前で俺は買っていた。

なんで寿司の良さが分からないかな。そんな俺は、ふと姫子の隣にいる弥生が気になった。


「弥生は随分食うな」

「成長期ですから」


弥生は、すでに三つ目のパンを食べていた。

左手にぶら下げたビニールには、パンの包み紙がたくさん入っていた。


「本当よね、その割にはあまり太っていないし」

「姫子の方が、ブクブク太っているから。この鯛みたいに」

「勇太、なによその例え」


姫子は俺に流し目で見てきた。

相変わらず険しい顔の姫子だけど、すぐに笑顔を見せていた。

満足な買い物ができたのか、俺の手には大きな洋服屋のビニールがぶら下がっていた。


「随分、お金使ったんだな」

「これぐらい、なんともないわよ。あたしはこう見えて、ちゃんと貯金もしているんだから。

本当に好きな人に、出し惜しみなんかしたらちゃんと伝わらないもん」


胸を張る姫子のしぐさは、ちょっとかわいかった。

女の子らしさをたまに見せる姫子は、やっぱり女なんだと改めて思う。


「あそこ、なに?」


すると弥生は、少し遠くのお店を指さしていた。

そこには、人が集まっていた。


「なんか、人だかりできているね」

「ああ、あれね。本土から来たタイヤキ屋さんよ。ウチらの間で、すごく人気なのよ」

「私、買ってくる!」


姫子の答えの後、弥生は首からぶら下げているポシェットを手に握った。

そういいながら弥生は猛然とダッシュをしていった。

まるでチーターが獲物のシカを見つけたかのように。

その奥には、店の名前が分からないほどの黒山の人だかりができていた。

俺と姫子は、唖然としたままで弥生の背中を見ていた。


「食べ物に関しては、結構貪欲なんだよな、弥生」

「そう……意外ね」

「少し待っているか、歩き疲れたし」


姫子の荷物を持たされている俺は、商店街の通りの端にあるベンチを見つけた。

そのまま座ろうとしたとき、姫子が声をかけてきた。


「勇太……ありがと」

「ああ、いいよ」


姫子はしおらしい声で俺に言ってきた。最近の姫子は、小学生の時よりずっとかわいく見えた。

置かれたベンチには、カップルや、老夫婦が愛を育んでいた。

その隣に俺と姫子は一緒にベンチに座った。

それと同時に、俺は初めから持っていた疑問を姫子にぶつけた。


「そういえば、なんで俺と弥生を誘ったんだ?」

「それは……あたしとあんたがつき合っているように、先輩に見られているからよ!」

「へ?」俺は強張った顔の姫子に聞き返した。


「だって、いつもあたしと一緒にいるじゃない。

周りからあたしと勇太は、つき合っているように見られているの。

だから……だからあたしはあんたと関係ないって、見せつけるのよ!

あんたがちゃんと草薙さんとつき合っているのを、ね」

「あ、そっか……て、おい!」

「好きなんでしょ」


いい香りの姫子は、そういいながら俺の方に顔を近づけた。

真剣な顔で俺の方をじっと見ていた。姫子の本気で俺の顔は自然と顔が赤くなっていた。


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