20
翌日、俺は薪島の商店街にいた。
この商店街は、薪島唯一の買い物スポットで、洋服屋から、スーパー、日用品店、肉屋、魚屋、本屋すべてがそろう。逆に言えば、この商店街以外だと薪島に店がない。
商店街で、俺と姫子と弥生は歩いていた。
俺たち三人は、学校にいないので全員私服だ。
白いシャツに青のジーンズをはいた俺は、髪を短く刈り込んで周りを見ていた。
「いいのかよ?姫子」
「いいのよ、勇太」
俺の右隣の姫子は、笑顔を見せていた。
なんだか、姫子の考えが今でもよくわからない。
姫子は、相変わらずのゴテゴテファッションで赤白のプリントシャツと、チェックのミニスカート。
よくいる、どこにでもいそうな派手好きの女子。
普段カールかかった髪を大きなリボンで飾った姫子が肩を怒らせて歩いていた。
「草薙さんはここに来るの、初めて?」
「はい。薪島は学校以外、行ったことがなかったので……」
そして、姫子の右隣には弥生がいた。
つまりは、姫子を挟んで両脇に俺と弥生が歩いていた。
あまりにも不思議で違和感のある光景。
弥生は水色のワンピースに麦わら帽子をかぶっていた。
大人しそうな弥生の私服は、長くきれいな黒髪もとても清楚なお嬢様に見えた。
実際、弥生はお嬢様だけど。そんな俺は二人の私服を見回していた。
「でも、私服って個性が出るな」
「あら、そうね」
「特に姫子」
俺の言葉に胸を張った姫子。
でも気になるのは隣の弥生。いつも通りの無表情を見せていた。
「姫子は、すっかりイタイファッションだな」
「なによ、イタイファッションって何?」
「そんな格好、普通はないだろ。中学生で、かなり化粧濃くないか?」
「いいのよ、本土のJCはこれが流行っているの」
乱暴に俺の髪をひっぱった姫子は、鼻息を荒くしていた。
どうもウソ臭い、などと姫子の服装を見ながら歩くと、俺は姫子の隣にいる弥生の姿がないことに気づいた。
「あれ、弥生?」俺が気づき、声を上げると姫子も俺の方を見ていた。
「勇太、何やっているのよ!」
「あっ、いた」
俺が振り向くと弥生は、少し後ろにあるおもちゃ屋の前で固まったまま立ち止まっていた。
もちろん、すぐさま弥生に歩み寄った。
「弥生?」俺が声をかけるが、反応がない。
弥生は、おもちゃ屋のショーケースを見つめたまま立ち止まっていた。
「弥生、何を見ているんだ?」
「ウサギ」
そういいながら、弥生が指さしたものはピンク色のウサギのぬいぐるみ。
小さなウサギのぬいぐるみは、笑みを浮かべて愛くるしい姿を見せていた。
そして、その足には数字が書かれている。
「な~に、しているのっ!」俺の肩にのしかかるように姫子も見てきた。
「おそらく、姫子とは無縁のものだ」
「かわいいじゃない、あのウサギ。てか、あたしと無縁ってどういう意味?」
俺の右肩を抑え込んだ姫子は、さも不機嫌な顔を見せた。
そんな俺と姫子をよそに、弥生はため息をついて歩きだす。
「どうした、弥生?」
「いきましょ、沢野さんの買い物に来たのだから」
「そうね、でもその前に……勇太君」
弥生は前を向いたけれど姫子は俺の肩を、力を込めて強く握る。
その顔は、笑顔だけど完全にひきつっていた。なんだよ、覚えているのか。
俺の肩は、力いっぱいつかまれて痛みがあった。
「離して、くれないか……姫子」
「ええ、あたしと無縁の理由、教えてもらえればちゃんと離してあげるわ」
姫子は、それでも離してくれない。俺の肩をグッと力こめてつかんだまま、笑顔を浮かべた。
女子離れした姫子の握力は、俺の肩に痛みを走らせる。
「なにしているの?」
不思議そうな顔でのぞく弥生。振り返ってきて、俺と姫子を見返してきた。
「えっと、その……」
「草薙さん、勇太はちょっと肩がこっているみたいだから、ね」
姫子は、弥生にはちゃんとした笑顔を見せていた。
弥生はそれを信じたらしく前を歩く。
俺は姫子に肩をつかまれたまま歩かされていた。
俺はあることを思い出して、ふと俺は前を指さした。
「姫子、前から先輩だ」
「えっ、どこ?」
姫子は、俺の手を離して長い髪を急いでとかし始めた。
俺はそのまま少し前を歩く弥生の手を引っ張った。
「逃げるぞ、弥生!姫子は、サメみたいなものだからな」
「……はい」
弥生は、俺に手を引かれて走って逃げた。
もちろん、先輩なんかはいない。完全な嘘。
「勇太、どこにもいない……騙したわね!」
姫子は、嘘に気づいたが俺と弥生は姫子から少し離れていた。
よし、このまま逃げよう。
「ヤバッ、気づいた!追ってくるぞ、サメが」
「……はい」そのまま、俺と弥生は姫子の魔の手から逃げることにした。
「誰が、サメよ!」などと、姫子の怒号が響いていた




