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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
1章:初めての恋
2/27

この島は、薪島(まきしま)という。東京都内で、離島の一つ。

自然豊かな島で、特に島のいたるところから海が見える。

きれいな海と山が自慢な島だけど、負の歴史も持つそんな島。


初夏の薪島は暑い。でも蒸し暑さはあまりない。

学校帰りの道を歩くと、右側に大きな海が見える。

青々と広く続く海のそばの遊歩道は、潮のいい香りがした。

俺は姫子と一緒に、通学かばんを持ちながら海の見える通学路を歩いていた。


「勇太は、期末自信あるの?」

「まあ、姫子よりは点を取れる自信がある」

「なによ、それ。あたしだって勇太には、現国では勝ったことがあるのよ」

「一回だけだろ、まぐれで山が当たって……」

俺の言葉に、ムスッと膨れた姫子が隣を歩いていた。


「てか、赤点はもう取るなよ。前回数学、理科と英語かひどかったよな」

「なによ!取りたくて取っているわけじゃないわ。勇太の教え方が全部悪いのよ。

それに、今回は絶対に落としたくないの。赤点になったら……行けなくなるから」

口を真一文字にした姫子は、さらに目を険しくしていた。


「『七月七日、大七夕(だいたなばた)』か?」

「そうよ。今年はね、あれを先輩と行く約束なの。

先輩は来年三月に卒業しちゃう。だから最後にこの島で思い出、作るんだから!」

姫子は、握りこぶしを固めて気合の入った顔を見せていた。


「先輩も災難だよな……野球部の……ふごっ」

すると、姫子がぶん回した通学カバンが俺の後頭部を直撃する。

俺は、前につんのめってバランスを崩す。

右足でかろうじて踏ん張って、体勢を整えた。

すぐさま後頭部を抑えて、恨めしそうに姫子を見る。


「いってぇ、姫子」

「何よ、先輩の悪口を言うなんて許さないんだからねっ!」


(いや、先輩を気にしているんだけどな。こんな暴力女と、良く付き合えるよ)

不機嫌な顔で姫子は、ふてぶてしい顔で海の方に視線を逸らした。


姫子は、野球部のマネージャーをしている。

理由は単純、野球部のある先輩に憧れたから。

先輩は、野球部でキャプテンにしてエースで四番、おまけにイケメンで、頭もいい。

いわばパーフェクト超人だ。


姫子は、その先輩にバレンタインの時にチョコをあげて告白。

先輩は、ホワイトデーで姫子とつきっている。誰もが認めるれっきとした恋人だ。

生を受けて十四年、恋人いない俺には姫子が少しだけ羨ましかった。


「だから、今年は『大七夕』一緒に行けないわ」

「そうか……よかっ……いやあ、残念だ」

一瞬、姫子の手が伸びたような気がしたので語尾を修正した。

俺は視線に困って海を見ながら歩いていた。


先輩の話が出ると、ちょっと考えてしまう卒業後の事。

高校がない薪島は、進学を希望すると島を離れなければならない。

そう考えると、卒業までのわずかな時間が切なく思えてきた。

でもそんなことを気にしない大きな海は、今日も潮風を運んでくる。


「そうよ、残念なのよ。勇太、もっと残念がりなさい。この超絶美少女の姫子様が……」

「そんなことより勉強だろ。俺の家もうすぐだから」

そして、遊歩道の先には大きな港が見えてきた。


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