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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
三話:初夏の思い出
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薪島も、学校も、いつも通りの風景に戻っていた。

『大七夕』が終わると、祭りの後。寂しさが残った。

だけど来週から夏休みだから周りの生徒の会話は夏休みの話へと変わっていく、そんな時期。

暑かった朝の自由時間、俺は草薙の席に来ていた。


『大七夕』の後、俺と弥生の距離はさらに近づいた。

最近の俺は、弥生と一緒に通学するようになっていた。

フェリー乗り場で待って、いつも通りの弥生が無表情で現れた。

まるでアイドルの出待ちであるかのような、俺は弥生との通学が楽しかった。

ドキドキする気持ちを抑えられないのが、俺も日増しに強くなる。

だけど俺だけじゃなく、弥生の表情にもわずかに変化があった。


「そうなんだ、夏休みは両親と会えるのね」


通学路から、そのまま学校について教室にいた。

俺は弥生の席のそばにいて話をしている。周りの教室で、俺は視線を集めるようになっていた。


「ああ、俺の両親は盆休みにこの薪島に来ることになっている。

一個上の兄貴もこの島に帰ってくるんだよ」

「お兄さんって、どんな人なの?」

「それは……」俺が、兄の顔を浮かべて声に出そうとすると、


「ちょっといい、勇太」

甲高い声と同時に、俺の方に威風堂々と険しい表情で向かってきた。もちろん姫子だ。

カールの髪の姫子が、腕を組んで俺とほぼ同じ背丈の姫子がやってくる。

その姫子が来るなり、クラスの周りの反応は少し騒がしくなっていた。

どうやら弥生と姫子の間で俺が、二股かけているって思われているらしい。


「あっ」姫子の登場で、弥生は思わず前を向いてしまう。

「な、なんだよ、姫子」

「勇太は、明日空いているでしょ?」

「ああ、明日は漁もないし、それが……」

「あんた、あたしにつき合いなさいよ!」


目の前の姫子は、なぜか顔を赤らめた。

当然、姫子の声が周りの視線を俺に集めていた。

おかげで俺まで、意識して顔が赤くなっていくだろ。


「お、おい姫子……」

「ち、違うの。そうじゃない、そうじゃないの……草薙さん!」


手をバタバタさせて、ムキになって否定した姫子。

そんな中でも、弥生だけは表情をあまり変えずに前を向いていた。


「いえ、大丈夫です」

「勇太、アンタのせいじゃない!どうしてくれるのよ、誤解されたわよ!」

「姫子が、勝手に言ったんだろ!」


何を言っているんだ、姫子。俺の眉間にしわがよる。

姫子もムスッとしたまま俺を睨んでいるように見えた。

そして周りでは、修羅場だと勘違いされてへんな噂がコソコソ耳に入ってくる。


「大体、何をしにきた?」

「買い物、つき合ってもらうからね」


強く言って、その場を立ち去ろうとした姫子。

当然理解できない俺は、姫子を呼び止めた。


「買い物って?」

「昨日言ったでしょ、プレゼントを買うのよ!」

「そうか、ようやく俺に対しての謝罪のプレゼントを買うんだな」

「バカ、アンタなんか太平洋の海に飛び込んだって許さないんだから」


振り向きざまに姫子は、容赦なく俺の頭をドついてきた。

意外と力がある野球部マネージャーの突っ込みは強力だ、激しい痛みが頭に残る。

姫子のドツキに俺は、思わずよろめいてしまう。


「相変わらずだな、姫子」

「ふん、明日は絶対来なさいよ!後、草薙さんも連れてきなさい」

「弥生は、関係ないだろ!」


弥生の名前を引き合いにした姫子に俺は、怒りのあまりに机を激しくたたいた。

悔しかった、勝手に弥生を巻き込んだ姫子が。

だけど引き下がらない姫子。俺に対して憮然とした顔を見せていた。

でも名前が出てきた弥生は、相変わらず黒板の方を表情変えずに見ていた。


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