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今日は、七月七日。世間一般には七夕だ。
この薪島は、通称『七夕島』と呼ばれている。
それは『大七夕』が行われるから。
そして、七夕から一週間後の間が『大七夕』の祭りの期間になっていた。
その日の放課後、班での掃除当番も終わって俺はカバンにいつも通り教科書をしまっている。
すると、相変わらずのあの女がやってきた。
「ね、現国何点よ?」
鼻につくような高い声で、俺に挑発する女子はカールかかった髪の女子。
気品漂う鋭い目の女子をちらりと見て、
「なんだ、姫子か」と、相変わらずまともに相手にしない。
俺はようやく教科書をカバンに詰め終わった。
「ふっふっふ、勇太。聞いて驚きなさい。あたしの点数は八十五点よ。
どうかしら、今回もあたしの勝ちね。さあ、土下座しなさい!」
「八十七点」俺が自分の点数を言うと、みるみるうちに姫子の顔が引きつった。
「う、う、嘘でしょ!」
「これ、答案」そういって、俺は姫子に答案を見せて姫子を黙らせた。
「な、な、なにを……」
「姫子、返せ!」
「信じないわっ!」
そういいながら、俺の答案をクシャクシャに丸めて投げ飛ばした。
慌てて俺は丸められた答案を取りに行く。
悔しさまみれの姫子の目つきはかなり険しかった。
「わ、わるかったよ……」
「あのさ、勇太……一つ聞いてもいい?」
そんなとき、影を落としたような顔で姫子は俺の顔を覗きこむ。
なんだか、姫子の顔がちょっと赤いが。
教室は人がいつの間にかいなくなって俺と姫子だけ。ムードはいい。
「なんだよ、姫子?」
「この前、式部島でウチの制服を着た女の子と一緒にいたでしょ。
後輩の子がね、勇太のことを見たのよ」
その言葉に俺は固まっていた。姫子は、そのまま俺のシャツの裾をつかんできた。
ぎゅっと強くつかむ姫子のいい香りが、俺の鼻をつく。
それと同時に恥ずかしさもこみ上げてきた。
「な、なんだよ……いいじゃないか」
「詳しく聞かせてもらうわよ、勇太」
「えっ?」
しかし、姫子の反応は意外なほど落ち着いていた。それがなんだか逆に怖かった。