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YAYOI(上)  作者: 葉月 優奈
1章:初めての恋
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小さな島の中学校は、緊張感と解放感に包まれていた。

放課後を迎え、教室の中はあることで話題が持ちきり。

半そでシャツに黒ズボンの俺は、カバンにせっせと荷物を積み込む。

男子の中で背が低く、ありえない角度にはねた短髪の俺は教室にいた。


俺の名は、『志田 勇太』。薪島中の二年生だ。

「勇太、あんたに今日はつき合ってあげるわよ、期末試験の勉強」

そう、俺の後ろからやかましい程の甲高い声が聞こえてきた。


「なんだ、姫子か」

「なんだとは何よ」

そこには長いカールがかかった髪をかきあげた、セーラー服姿の女が腕を組んで仁王立ち。

胸を張って、鋭い目つきで俺を見下していた。

彼女の名は、『沢野 姫子』。性格のきつい、俺の幼なじみ。

俺が唯一まともに話せる女友達だ。


「この超絶美少女にして、クラス一の美少女の姫子様が、一緒に勉強をしてあげるっていうのよ。

ありがたいと思いなさいよ!」

「はいはい、とにかく俺と勉強したいんだろ、分かったから」

相変わらず、挑発的な姫子の相手は面倒だ。

いい香りがする姫子は、確かにクラス一の美女と言ってもいいだろう。

でもテストの点の低さも、クラス一といってもいい。つまりは、


「馬鹿だから、教えてほしいって素直に言えば……」

「うるさいっ!あたしは、馬鹿じゃないの。ただ単に、努力したくないだけよ!

それより、さっさと勇太のノート見せなさい!」

まくし立てる姫子にカバンを背負った俺は、大きくため息をついた。


「はあっ、面倒な奴だ。とにかく……」

姫子を背にした俺は、前の方で光景が偶然目にとまった。


それは、少し前にいる女子四人組の光景。

正しくは三人と、一人という構図で別れている。

「はい。今日も草薙さんお願いね」

「草薙さんは、一人でお掃除が好きでしょ。明日も試験だし、あたしたち勉強しないとね」

「おねがいするわ、草薙さん」

三人の女子が持っている(ほうき)を、目の前の気弱そうな女子に無理矢理渡していた。


「後、よろしくね~」

そして箒を強引に渡した三人の女子は、そのまま笑顔で教室を出て行った。

一人取り残された長い髪の女子は、黙々と箒を手に掃除を始める。

俺は、その光景をぼんやりと見ていた。


「あれ、加奈子たちの班じゃない。今日は、掃除当番なんだ」

「そうみたい、だな」

姫子が言っていた、加奈子は三人組のリーダーっぽい女子だ。

姫子と同じく大きな女で、バレー部に属しているらしい。


このクラスは、五班に分かれている。

それぞれ、班ごとでクラスでの仕事が割り当てられていた。

掃除当番、給食当番、ホームルーム当番などなど。

その役割を、週ごとに五つの班がローテーション組んで消化する。

俺は不運にも姫子と同じ班。今週は、幸い当番になっていないけれど。


だけど、俺が気にしているのはそいつじゃなかった。

一人で箒を四本持たされて、淡々と片づけを始めた大人しそうな女子。


「なあ、あいつって……」

「『草薙(くさなぎ) 弥生』ね、あの子よくわからないのよ。

クラスでもあまりしゃべらないし、存在感薄いし。本土出身ってこと以外、謎が多いのよ。

ねっ、勇太はもしかして草薙さんの事、気になるの」

すると、俺の方に顔を近づけてきた姫子。香水の香りがするが、俺は顔をそむけて前を歩く。


「何を言っているんだよ、姫子……なんか、可哀そうだなって。

なんか、妙に気になるんだよ。アイツ、何が楽しいのかなって」

「うわ~、優しい~。あたしには、そんなこと言わないくせに」

「うるせえ、行くぞ!」声を荒げて、俺は教室を後にした。

「待ちなさいよ!」などと、後ろからやかましい姫子を引き連れていた。


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