プロローグ
この作品は、天崎剣様主催の「空想科学祭2011」参加作品です。
サイトはこちら。http://sffesta2011.tuzikaze.com/
落としません、今年は!
むかぁし、とある場所で、ひとりの男がとても良い夢を見たのだと。
それを、止せば良いのに兄にしゃべってしまってね。話を聞いた兄は弟に懇願するんだ。「その夢を売ってくれ」と。
男は勿論断った。せっかくの良い夢を、どうして売らなければならないのかってね。
そうしたら、怒った兄は刃物を取り出して、男を殺しちまったんだ。
……愚かだねぇ。たかが、夢なのにね。
夢に良いも悪いもあるもんか。
誰もが毎晩、寝る時には見ている筈さ。つまり、一番身近にあって、一番遠いのかも知れないね。
縁起の良い夢ならば良い夢だし、とんでもない夢なら悪夢と呼ばれる。たかが夢で、てんやわんやする人間の、まぁ愚かしいこと。
もっとも、最近ではそうとも言い切れないのだがね。
人間が夢を見るのを止めるほど、世の中は荒んだのかねぇ。
だったらうちも、ようやっとお役ご免か。僻地で、居眠りでもしながら永遠の余生を過ごすかねぇ。
そうして、今度はうちが夢を見るのさ。
楽しい夢、綺麗な夢、怖い夢。なんでもござれ。ここ数年で夢の中でも近代化が進んでね。見たい夢を録画出来るようになったんだ。寝転びながら、他人の見た夢を繰り返し見られる。こんな時代が来たんだねぇ。
さて、今日は何を見ようかな。
おや、どこからか声が聞こえるよ。なんだ、またあんたらか。でも、どうやらまだ、うちの出番ではないようだ。
では、取りあえずお手並み拝見と行きますか。