第一パオパオ
これは、まあまあ不思議な国のお話。
まあまあ不思議な文化がある。
象に小さな家をくくりつけて、そこに住み、象を歩かせて旅をする。
そんな人々を象乗り、象は尊敬の意を込めてパオパオさんと呼ばれる。
「暇だ―!暇だぁーっ!暇なんだぴょーん!」
暇のあまり少しばかり頭が飛んでいる少女の名はいちご。
これから若さの勢いで、象乗りになっちまうんだよ。あーあ。
いちごの両親は放任主義すぎる為、娘の旅立ちに全く反対しなかった。むしろ、
「行ってこーい!もう二度と帰って来んでもええよーん」
などどティッシュのように軽いノリだ。
象乗りに対しては、国が文化保存の為に資金と食料をそこそこ援助してくれる。
と、いうわけでいちごは調子に乗って
「れっつごーとぅーねばーらんどっ!」
なぁんて叫んじまうわけさ。アディオス。
ぴょいぴょいはねながら、いちごが向ったのはパオパオランド。
旅の相方になる象を借りる所だ。
盆地の中心に掘立小屋が一つあり、その周りで象どもがテキトーに暮らしてる。
しかし、パオパオさんはただのテキトーな象ではない。
とても頭が良くって、いや良すぎて人語が分かり話すことが出来る。
パオパオランドの長のみが、普通の象をパオパオさんにする力を持っている。すごいね。
さて、いちごちゃんはどうするだろう。
いちごはたくさんのパオパオさんに囲まれて、おろおろしてやがる。
「どうしよっかな。どのパオパオさんにしよっかな・・・」
パオパオさんは、色々なバリエーションの奴がいる。
ピンクでもふもふしてるプリティな子、たくましくて眼がギラギラしてる奴、鼻が長すぎて困っている奴、眼やにがすごいやつなどなど。
みな、パオパオランドでの平和すぎる生活に飽き飽きしており、全身から旅に出たいオーラを出していちごを囲む。
いちごはうろたえながらも、ちゃっかりしているので、それぞれの象を見て品定めする。
しかし、いまいちピーンとくるパオパオさんがいない。
彼女の旅はここで終わっちまうんですかね?
いや、断じて否。きっとよいパオパオさんを見つけるだろう。
見つけてくれないと困ります。まぁ見守ってやろうじゃないか。
いちごはふと、一心不乱に穴を掘っているパオパオさんに気付いた。
思わず駆け寄る。パオパオさんはじろりといちごを見て
「何だ貴様」と、渋い声で言う。
いちごはその瞬間、こいつは出来る象だと確信した。
これを人は運命と言ってしまう。
「よし君、あたしと旅に行こ?」
象は穴を掘るのをやめ、いちごの方を向き、尋ねる。
「なぜ旅に出る?」
「なぜって・・・楽しそうだからだよ。穴掘りもいいけど、外にはもっと楽しいことあるよ」
象は口の端をにゅっと曲げて
「浅い。浅いが・・・悪くはない。ついていってやってもよい。だが、楽しませろよ」
と、うんざりしたふりをしてのたまった。素直じゃないんだからもうっ。
「貴様、名前は?」
「いちごだよ。君は?」
「名などとうに捨てた。貴様が好きに付けていい」
象は遠い目をして笑う。
「じゃあパオ様!」
「ふっ・・・悪くはない。小娘、早く行くぞ。日が暮れる」
偉そうだけど気分が乗ると、とことん張り切るパオ様であった。