ある勇者の逃避
短編集の十作品目です。
世界観は繋がっていませんが、この話だけは十作品という節目を少しだけ意識して書きました。
「ああ、いい天気だなあ」
「おっ。お前も日向ぼっこか?」
「ははっ、気持ち良さそうだな」
「…………」
「なあ、聞いてくれよ」
「俺ってさ、勇者だったんだ」
「王様に認められて街の人にも応援されて」
「魔物いっぱいやっつけたんだ」
「貴族の人とかも旅の途中で困らないようにって色々手配してくれたりして」
「特に一人、すげえ世話焼きな人がいてさ」
「でもさあ!」
「皆、俺に期待しすぎなんだよ」
「皆の中の俺って」
「常に微笑んでいて、優雅に歩いていて」
「夜はお洒落な店で食事してるんだって」
「休日は、花を愛でて、楽器を奏でてるらしい」
「まあ、友達から聞いた話だけどな」
「さすがに美化しすぎじゃね?」
「俺、肉がっつり食べたいし、酒も飲みたいし」
「休みはごろごろしたいんだけど」
「憧れてくれるのは嬉しいからさ」
「笑顔とか歩き方は練習してさ」
「皆、想像通りだって喜んでくれたなぁ」
「他はまぁ……」
「誰も見てないしいいかな!って」
「でも、ちょっとだけ嫌だったんだ」
「理想に応えたいって気持ちもあるけど」
「なんか、俺じゃなくて、皆が考えた勇者様を見てるみたいで」
「ちょっとだけ、寂しかったんだよな」
「そしたらさ、一回だけ皆の前でずっこけちゃったんだよ」
「はははっ、めっちゃ焦ったわ!」
「幻滅されるかなって思ったけど、意外と受け入れてくれて」
「お茶目で可愛いなんて言われた」
「やべっ、自分で言うと恥ずかしいな」
「わっ、膝乗りたいのか?」
「いいぞぉ。おお、お前柔らかいな」
「……結局、期待通りじゃないと嫌われるって思い込んでただけみたいだった」
「俺の方が皆に想像を押し付けてたのかもしれない」
「それから、魔王倒したんだよ」
「仲間と協力して、めっちゃ頑張って」
「ぎりっぎり倒せた」
「いやー、死ぬかと思ったなあ」
「王都に帰ったら、もうお祭り騒ぎだったよ」
「世界を救った英雄だって」
「めちゃくちゃ褒めてもらえて」
「めちゃくちゃ喜んでもらえて」
「皆、泣くほど感謝してくれるからさぁ」
「……いや、嬉しいんだけどさ」
「あそこまで泣かれると、どうすればいいか分かんなくて」
「え、そんなに……?」
「って、思っちゃった」
「よく考えたら、魔王倒したって凄いことだよな」
「まあ、いいや」
「とにかく」
「皆喜んでくれて、すげえ嬉しかったなあ」
「ひとまずは」
「仲間たちと一緒に平和だなぁって楽しく暮らしてたんだけど……」
「気付いたらさぁ」
「……はぁ」
「……いつの間にか」
「俺が王女様と結婚して王様になる感じになってたんだよ!」
「びっくりしたよ!」
「俺が驚いてたら、仲間たちも」
「え、ならないの?」
「って逆に驚かれてさあ」
「王様に文句言おうと思って乗り込んだら」
「凄い優しい目で、王座あげるって言うし」
「王女様も一緒に素晴らしい国を作りましょうって言うし」
「何も言えずに家に逃げ帰っちゃった」
「それで、仲間に言われて思い出したんだけど」
「魔王討伐の途中で王様に、魔王倒したら王様になっていいよって言われてたんだよ」
「冗談だと思うじゃん」
「皆、めっちゃ酔っぱらってたし」
「まさか、本当だったとは……」
「だからさ」
「一応、仲間にも王様たちにも国民の人たちにも」
「俺は、王様になりませんって言ってきた」
「それで」
「逃げてきちゃった」
「皆、残念そうにしてくれたんだけどさ」
「きっと、王様になるのは俺の役割じゃないんだよ」
「勇者も王様も、人々を導くってところは同じなのかもしれない」
「だけど」
「勇者っていうのは、魔王を倒すまでの灯りなんだ」
「真っ暗な中で、こっちだぞって手を振る役」
「……いや、自分で言うとちょっと恥ずかしいな」
「でも、たぶんそんな感じ」
「太陽が昇った世界で本当に必要なのは、俺じゃない」
「道を作って、畑を耕して、明日も大丈夫だって言える人だ」
「たぶん、王様になるべき人は他にいるんだ」
「勇者パーティが冒険中に困らないようにって」
「色々支えてくれた、彼みたいな人がいいんじゃないかなあって思うね」
「まあ、もう俺が口を出すことじゃないよな」
「……役目の終わった俺は」
「いつか何かが始まるまで、のんびり休憩だ」
「さぁて」
「しばらくは王都を離れときたいし」
「適当にぶらぶらするかなあ」
「何か、めっちゃ長々と独り言喋っちゃったわ!」
「ん?お前も一緒に来るのか?」
「よし!」
「それなら、一緒に旅に出ようにゃん!」
「なんてな!」
「はははっ」
「じゃあ、ただの一人の男と一匹の猫の」
「冒険の始まりだ!」
猫は男の言葉など分かっていないように、尻尾を揺らして歩き出した。
男は小さく笑うと、荷物を肩にかける。
遠くに見える王都は、今日も賑やかだった。
それに背を向け、猫と歩幅を合わせるように、男は鼻歌を歌いながら次の街を目指した。
もし、短編十作品すべて読んでくださった方がいたら、リアクションなどいただけると嬉しいです。
今後もよろしくお願いします。




