脱皮したリモコンの物語なの。
最近のリモコンは、脱皮するみたいなの。
最初は、気のせいだと思っていたの。でも、手垢でベタついていたはずのリモコンが、朝起きたら見違えるほどツヤツヤしていたの。まるで、指名した女の子が写真よりずっと綺麗だった時の「逆パネルマジック」みたいな、得した気分になったの。
でも、やっぱりリモコンだもんなぁ、と思って販売店に聞きにいったの。
「いらっしゃーせー。故障すか?」
店員は、コンビニのホットスナックでも勧めるみたいな軽さで言うの。
「いや、なんかツヤツヤしてて」
「あー、それ再生素材の自己修復っすよ。九州のどっかの大学が開発した新素材で、最近の製品は全部それっす」
店員に勧められるまま、同じ素材のスマホカバーまで買って帰ったの。
説明書には確かに「微細な傷を自己修復し、常に新品の輝きを保ちます」って書いてあるの。
なるほど、再生素材って、古い皮を脱ぎ捨てて若返るってことだったの。
けれど、それは始まりに過ぎなかったの。
その再生素材には、深刻な「初期不良」があったの。
修復のサイクルが速すぎて、一度脱皮を始めたら止まらなくなっちゃったの。
製品は次々と自主回収になったけれど、メーカーはあっという間に倒産したの。
でも、人間って不思議な生き物なの。
蛇の抜け殻がお守りになるみたいに、みんなリモコンが脱皮した「透明な殻」を有り難がり始めたの。
「リモコンの皮を持っていると幸運が訪れる」なんて噂が広まって、皮はいつの間にか通貨みたいに取引されるようになったの。トレーディングカードなんて目じゃないくらいの熱狂なの。
今や、リモコン本体でテレビをつける人なんて誰もいないの。
リモコンは蝶や花のように愛でられ、小さな祠に鎮座して、毎日磨き上げられる「御本尊」になったの。
夕暮れのデパートの屋上。あの店員が、首の後ろにある小さなファスナーに手をかけたの。
ジリジリと音を立てて開いた中から現れたのは、大きな目をしたグレー色の宇宙人なの。
彼は慣れた手つきで「人間の皮」を脱ぎ捨てると、UFOのクローゼットにあるエモン掛けにそれを丁寧に吊るしたの。
「今シーズンの地球人モデル、ちょっと着心地が悪かったな」
宇宙人はそう呟いて、ツヤツヤに修復された銀河の彼方へ、音もなく帰っていったの。
おしまい




