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脱皮したリモコンの物語なの。

作者: オリオン
掲載日:2026/02/28

最近のリモコンは、脱皮するみたいなの。

最初は、気のせいだと思っていたの。でも、手垢でベタついていたはずのリモコンが、朝起きたら見違えるほどツヤツヤしていたの。まるで、指名した女の子が写真よりずっと綺麗だった時の「逆パネルマジック」みたいな、得した気分になったの。

でも、やっぱりリモコンだもんなぁ、と思って販売店に聞きにいったの。

「いらっしゃーせー。故障すか?」

店員は、コンビニのホットスナックでも勧めるみたいな軽さで言うの。

「いや、なんかツヤツヤしてて」

「あー、それ再生素材の自己修復っすよ。九州のどっかの大学が開発した新素材で、最近の製品は全部それっす」

店員に勧められるまま、同じ素材のスマホカバーまで買って帰ったの。

説明書には確かに「微細な傷を自己修復し、常に新品の輝きを保ちます」って書いてあるの。

なるほど、再生素材って、古い皮を脱ぎ捨てて若返るってことだったの。

けれど、それは始まりに過ぎなかったの。

その再生素材には、深刻な「初期不良」があったの。

修復のサイクルが速すぎて、一度脱皮を始めたら止まらなくなっちゃったの。

製品は次々と自主回収になったけれど、メーカーはあっという間に倒産したの。

でも、人間って不思議な生き物なの。

蛇の抜け殻がお守りになるみたいに、みんなリモコンが脱皮した「透明な殻」を有り難がり始めたの。

「リモコンの皮を持っていると幸運が訪れる」なんて噂が広まって、皮はいつの間にか通貨みたいに取引されるようになったの。トレーディングカードなんて目じゃないくらいの熱狂なの。

今や、リモコン本体でテレビをつける人なんて誰もいないの。

リモコンは蝶や花のように愛でられ、小さなほこらに鎮座して、毎日磨き上げられる「御本尊」になったの。

夕暮れのデパートの屋上。あの店員が、首の後ろにある小さなファスナーに手をかけたの。

ジリジリと音を立てて開いた中から現れたのは、大きな目をしたグレー色の宇宙人なの。

彼は慣れた手つきで「人間の皮」を脱ぎ捨てると、UFOのクローゼットにあるエモン掛けにそれを丁寧に吊るしたの。

「今シーズンの地球人モデル、ちょっと着心地が悪かったな」

宇宙人はそう呟いて、ツヤツヤに修復された銀河の彼方へ、音もなく帰っていったの。

おしまい

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