第三話 はじめてのおつかいhardcore in北部戦線
帝国暦五十年十二月十日 快晴
お父さんお母さんミーアです。お元気ですか?軍学校から手紙を出すことができないので、手紙の役割を兼ねて日記を書くことにしました。
私が軍学校に入って早二年が経とうとしています。二人とも心配していると思いますが私は元気です。それどころか高等科に飛び級もして、今は戦場にいます。これも全部二人が私に贈ってくれたこの力のおかげです。私を産んでくれて本当にありがとう
今日は北部戦線で戦地見学をしたよ。冬だから激しい戦争は起きてないらしいけど、時折銃声が聴こえてきて、とんでも無いところに来ちゃったなって、そう思ったけど、あたりに灯が無いから夜になると空一面に星が広がってすごく綺麗だなって思っちゃった。戦場には来てほしく無いけど、二人にも見て欲しいな。
ところで明日私は、ある任務に就くことになりました。これからもこの日記を書き続けられると幸いです。まだまだ書き足りないけどもう書けないから続きは明日!
日記を書き終えたところで徴収がかかった。まだ空には星が輝いている。
ユリーシャの異能で敵の情報を探るためには少なくとも一キロメートルは近づかないといけない。たった状態の人間が視認できる距離がだいたい四キロメートルであるから、常人であれば自殺行為である。したがって軍部の思惑としては、ニックの異能で私達を包み込み、私の異能で周囲を観測し敵の位置を把握して、闇夜に紛れながら敵地に赴くという算段である。なんともお粗末な作戦だ。まるで軍上層部も私たちを人として見ていないようである。だが、戦地では"上官の命令は絶対"これすなわち無謀な作戦であったとしても私達には"完遂"という選択肢しかあり得ないということを意味していた。
こうして楽しいハイキングの時が始まった。私たち一向は、戦場を北進し放棄された敵軍の塹壕に辿り着いた。冬場は補給が厳しいらしく、敵軍は大きく後退している様であった。ここから一キロメートルと少し離れたところに、敵軍の最前線がある様であった。私の異能によると敵軍の監視はまばらで、一部手薄になっている場所があるのを確認することができた。さて、どこまで進むか、時間はあまり残ってない。するとちょうど良い距離にある砲台跡が無人であることがユリーシャの異能でわかった。私たち一向はそこに身を隠し、任務を遂行する事にした。"本当に敵地なのか?"といった疑問が浮かぶほどにすんなりと任務が完遂に近づいている。帰るまでが遠足なので油断は禁物であるが、懸念点といえば夜明けすなわち"タイムリミット"が、四時間後であることだろうか、ここに到達するのにかかった時間は二時間なのでそう焦ることも無いのだが、敵軍の暗号を解読するには時間がかかるらしい。そんなことに思いを巡らしていたそのときであった。私とは反対側の地点で見張りをしていたニックが突然妙な動きをし出したのだ。近寄ると、
「なあミーアこれ、友軍のドッグタグじゃ無いか?」
「ダメー!!」
あからさまに、ブービートラップである。静止しようとしたが時すでに遅し。
あぁ私の最後って、こんなもんなんだ。
"チュドーン"
ニックを止めようとした右手が吹っ飛ぶ。爆発の刹那に沢山の毛が目前を覆ったため、致命傷にはならなかったようである。ニックはというと服は吹き飛んでいたが、爆散した砂利が軽く刺さるほどの傷である。なるほど、確かにこれは人では無い。帝国がそう判断するのも納得がいく…
ちょっと待てよ。右手が吹っ飛んでいる?自身の状況を認識すると同時に耐え難い痛みが走ら…ない?それどころか引きちぎれた跡から体組織が盛り上がり、手が再生している。いや、私の目によると錬成していると言った方が正しいらしい。新たな神からの異能なのか?いや、欠損部位の回復なんて聞いたことがない。もしや、遂に気が狂ってしまったか?まぁつい先日まで七歳であった少女がこの様な状況に陥ったら幻覚を見るのも無理はないが、どうやらそういったわけでも無いらしい。
「ミーアその手首どうした?!」
"お前のせいだよ。"といった言葉を噛み殺す、今はそんな場合じゃない、ここは戦場この馬鹿や、絶賛右手再生中の私ならともかく、ユリーシャが生き残れる確証はない、すでに周囲の敵は異変に気がついている。考察も後回しだ。
「すぐにユリーシャのところに戻らないと!」
ハッとした顔をするニック…
「なんでお前は、こんなにも冷静でいられるんだ?」
そんなニックの手を引き、ユリーシャのところへ向かう。
「ユリーシャ!撤退するぞ!」
ニックが呼びかけるが、ユリーシャは気絶していた。無理もない、敵軍の音を拾うために異能の感度を最大にしていたのだ。だが、今は気絶してもらった方が都合がいい。服が爆発四散し体毛で身を隠す変態と欠損した右手が再生しようとしている少女を目の前にして、冷静に状況を判断し、行動するなんて通常の感性の持ち主ならできるわけがない。
ニックにユリーシャを抱えてもらい、(裸の男に年頃の娘を抱さすのはどうかとおもうが)私たちはこの場を脱した。友軍の自営地に戻る頃にはもうすでに、本当に欠損していたのだろうか?と思うほど完全に右手は回復していた。衣服の損傷だけが爆発に巻き込まれた証であった。ユリーシャをテントに寝かし、少佐にことの顛末を説明した。
「…なるほど、多少の犠牲は覚悟していたが、いや、犠牲は出ていないのか。敵の前線の状況を知れただけでも大きな成果だ。感謝する。後でユリーシャ君からも報告してもらう。ニック、君には後ほど話がある。ミーア、君はここに残る様に。」
青ざめた顔をして立ち去るニック。彼にどの様な処分が下るのだろうか?責任を問われるとしたら、学生を重大任務に当てる軍本部なのだが、
しばらくして、少佐が口を開いた。
「ミーア君。改めて任務完遂ご苦労。立ち話は疲れるだろう、そこに座りなさい。少尉、支給品に紅茶があったはずだ。出してあげなさい。」
湯気のたったカップが運ばれる。
「砂糖は支給されていないんだ。大丈夫かね?」
先程までの寡黙な少佐とは打って変わって今は親戚のおじさんの様な感じになっている。
「はい、話というのはやはり、この右手のことでしょうか?」
「無理に敬語を使わなくても良いさ。再生時の詳細な情報が知りたい。」
欠損した部位によって異能が発現することや、異能は欠損した部位を補うことはあるが、それが再生することは無いこと。などの異能についての説明を交えながら、その時の情報を整理しながら事細かに少佐に伝えた。そしてこのことは口外することを禁じるといった契約を交わした。軍部の信用問題に関わるらしいが、それと同時に私の存在自体が国家機密と化したのだ。ニックにも同じ契約が課せられるらしい。
「罰せられるの?」
と聞くと、少佐は笑って
「そんなわけ無いじゃ無いか、ユリーシャくんを無事連れ帰っただけでも大手柄だよ。ただ、少し彼には教えないといけないことがあるようだけどね。」
よかったねニック。
「お父さん、お母さん、会えるのはまだまだ先になりそうです。」
朝焼けの中に少女が一人空に向かってそう呟いた。
PVの人数が三桁いってて驚きました。こんな下手な文でも読んでくれるのですね、ありがとうございます。