6.舞台
ある晴れた日。
一瞬の静寂ののち、割れるような歓声が響き渡った。
一人立ち尽くすステラは肩で息をしながら、地面に尻をついた目の前の男を見下ろす。座り込んだ男は状況が理解できないと言わんばかりに唖然とこちらを見上げた。
「凄いぞ!ねーちゃん!!」
「いいぞー!!」
「格好いいー!!」
「おめでとう!!」
「おい!男のくせに女なんかに負けてんじゃねぇよ!!」
祝福と野次が飛び交う。
ステラは他人事のようにそれを聞いていた。
とうとうこの日がきた。
やっと、というべきか。もう、というべきか。
そんなふうに考える時点で答えは決まっている。変わってしまった自分に淋しく笑うと、ステラは空を仰いだ。
(ここまできた)
半年に一度行われる騎士選抜トーナメントでは、優勝すれば誰もが憧れる第一騎士団への配属が約束されている。そして、勝者は王に直接言葉を賜る栄誉が与えられた。
見上げた先、ステラの瞳に晴天が映る。
どこまでも青く、どこまでも広い。
胸いっぱいに吸い込んだ空気には、どこからか運ばれてきた花の香りが混じる。
「……」
この日がくることをずっと夢見ていた。
「勝者、ステラ」
名を呼ばれ、ゆっくりと前を向く。
こちらを見るアーサーと目が合った。冷たい、氷のようなペリドット。
口がザラつく。
ステラは一歩踏み出すとアーサーの元へと足を進める。
王に言葉を賜るとき、必ず第一騎士団団長がそばにつく。その時がステラの最期だ。
ステラは剣を握る。
客席にあの男がいた。
始まるのだ。
役者は揃い、幕は既に上がっている。
舞台に立つステラにもう迷いはない。