4.罪人
「…っ!!」
深夜。
声にならない悲鳴を上げて飛び起きた。
心臓が痛い。ポタポタとシーツに汗が滴る。荒い呼吸を整えながら、呆然と周囲を見回した。
簡素な机と椅子、質素な部屋。自分の部屋だった。
見慣れた光景にようやく肩の力が抜ける。
ステラは大きくため息を吐くと手に顔を埋めた。
ここ最近、眠れない夜が続いている。理由に心当たりが有りすぎて、だんだん疲弊していくのを自覚していながら受け止めることしかできない。
夢を見る。
荒廃した故国でみんなの骸が積み重なったその頂に家族の首が並んでいる。虚ろな顔でステラを見つめる家族の顔が、あの日殺した男の顔と重なった。
『人殺し』
ステラの中で声がする。
『お前はただの人殺しだ』
聞こえる声に耳を塞ぐこともできずに、痛む頭に目を瞑った。喘ぐように呼吸をする。
息が苦しい。
ずっと、ずっと。まるで溺れているかのように、息ができない。
『怖気づいたか?』
声が嗤った。
『あいつと同じだ。あいつと同じ、人殺し。いいじゃないか。どうせあいつを殺したら人殺しだ。今更後悔してるのか? 我が身可愛さですべてを忘れて生きていくつもりか? 生きていけると思っているのか』
哄笑が罵声へと変わる。
『薄情者。お前だけが幸せになっていいものか。お前だけが楽になっていいものか。お前だけが、お前だけは。忘れるな。忘れるな。忘れるな』
『彼らの無念を、忘れるな』
ステラは嗤った。
あの日の出来事を許せと言われても、許せるわけがない。忘れろと言われても、忘れられるわけがない。父の笑顔も、母の優しさも、弟の愛らしさも、すべて奪われたあの絶望を、どうしてなかったことにできるというのか。
我が身可愛さでやめることができていたなら、端からこんなところにはいない。
どうせもう穢れた自分はまともな人間には戻れやしないのだ。
ならば堕ちるところまで堕ちてやろう。
止んだ声に、ステラは顔を上げる。
夜が闇を吐き、窓の外は何一つ見えやしない。
ー……家族は泣くだろうか。
窓に映る自分を見る。
成長した自分が澱んだ目でこちらを見ていた。
あの日、あの時。一人だけ生き残ってしまった事実を、もうずっと赦すことができないでいる。