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むすかり  作者: やきぶたたまこめし
9/30

墨色の心

秋祭りの日。

いつもは着ない秋色の浴衣を着つけてもらった。不慣れなせいか、動かしにくい足を無理やり動かした。

家の近くの公園では、紅葉が色づき始めていた。

赤と黄色とかぼちゃ色の落ち葉が、木の下にたくさん落ちている。

私は、未だに落ち着かない気持ちを落ち着かせようと、落ち葉を一枚手に取った。

「カサ…」

カラカラに乾いた葉っぱを、「パリ」と音を立てて二つに割いた。

黄土色の砂の上に落ちる葉っぱを、ただ見つめていた。


「ごめんね、遅くなって…!」

そう、一華の声が聞こえたのは、待ち合わせ時間より10分も遅れてのことだった。

「ホントにごめんね。準備に時間が掛かっちゃって。」

一華は、私と同じ着物を着ているようには見えないほど可愛らしくて、大人びていた。

「すごいね一華、私と同じ着物着ているようには見えないよ。」

綺麗に結わえ付けられた薄茶色の混ざった髪に、薄く塗られた季節感のあるメイク。どれも中学生の身のこなしには見えなかった。

「ほんとッ!」

「うん。一華、すっごく可愛い!」

硬直しかけていた口角を上げて、無理やりの笑顔で笑った。

「ありがと、そんなこと言われたの、初めてだよ…!」

そう言った一華の目の端が少しだけ、うるんでいたような気がした―

私は、「どうかした?」と問いかけてみたけれど、一華は「ううん。嬉しかっただけ。」と、嬉しそうに笑うだけだった。

商店街の正面には、チラシの紙と同じようなプリントがされた看板が飾られてあった。

提灯が一メートルくらいの間隔でたくさん吊るされていて、もう日が暮れ始めているというのに、中は昼のように眩しそうだった。

浴衣を着た人や私服の人、数人のグループで固まっていたり、二人や三人で来ていたり、色々な人が大勢集まっていた。

私は、拭いきれないを感じると、浴衣の裾を強く握り締めた。

大丈夫、そう言い聞かせると、人の多い商店街へと足を進めて行った。



最近、思い出すことが多くなった。

未だに机の上に積み上げられている教科書を、ベットの横に飾ってあるクラス写真を見るたびに、恐怖が私を襲った。

会ってしまったら、もっと思い出す。

―ずるいよね。私らは必死に頑張ってんのに、一人だけ逃げて、楽して。

―ほんとね、あいつだけ逃げて。

―一人だけ逃げだしておいて、ホントずるい。

―てか、学校行ってないのに、こんなとこ来る資格ある?

そんな声が、今にも聴こえてきそうで、怖かった。

もう、全部全部…、

忘れてしまいたいのに―



制服の子が、いた。

私の学校の、チャック柄の、紺色の制服。

4人ぐらいで集まって、楽しそうに話していた。

自然に足が止まって、震えが止まらなくなっていく。

怖い―そう、思った。

怖くて怖くて、仕方なくて―

これが逃げてる、っていうことなんだろうけど、

私は逆境に立ち向かえるほど、強くはない。

どんどん青ざめていく顔に、硬直しきっていく体。

私はまた、逃げるのだろうか―?

そう、頭の冷静な部分で考えた。

だってもう、そうするしかなかったから―



「ごめん…。」

やっとのことで口にした言葉。

きつく握りしめた浴衣の裾は、きっとクシャクシャになっているだろう。

「え…?」

「一華、やっぱり私、行けないや…。」

震えて、うまく声が出せなかった。

でも、私はすぐ、走り出した。

出来るだけ遠くに、誰もいない場所に、行くために―。

視界は何故か、涙で滲んでいて、はっきりしなかった。








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