鉛色の苦しみ
帰り道。
とぼとぼと下を向いて歩く道は、雨上がりでじめじめしていた。
いつもは灰色の道路が、雨に濡れて墨色に変わっている。
私は結局、行くことが出来なかった。
あの時、一華と一緒にフードコートで昼食を食べていた。
少しずつだけど緊張も解けて、不安な気持ちが薄くなっていくのを感じていた。
でもその時、大勢の人の影の中に、制服が見えた―
同じ中学のだった。
目が合った。
全身が震えていって、どうすることも出来ない恐怖が、私を襲っていった。
「どうしたの?」
一華は不思議そうな顔で私を見ていた。
「ぁ…―い、いま……そこに………」
声が震えて、何も言えなかった。
私は、いつの間にか走り出す足を、止めることが出来なかった。
家に帰っても、ずっと怯えていた。
2週間くらい家から出ることが出来なくて、フリースクールも、休んでしまった。
薄暗い部屋の中で、私はずっと、何かに怯えていた。
何日か経って、やっと気持ちの整理がついたころ、フリースクールに行くことにした。
一華に、会いたかった。
「何、してたの?」
玄関で私を待っていた一華が、言った。
怒ったような、低い声。
「あ、うん。えっと…、ちょっと気持ちの整理をしてたの…。」
「ふ~ン―。ま、いっか。今日はね、奈穂に話があるんだけど!いい?」
「うん…。」
そう前置きをして、一華は一枚のチラシを私に見せてくれた。
赤や黄色の葉っぱが背景にたくさん散りばめられていて、真ん中に大きく『秋祭り!』と印刷してあった。
「秋…祭り…?」
「うん!」
私が不安そうな声で言うと、一華は何も気にしていないような声色で言った。
「来週の日曜日に、商店街で秋祭りがあるの。それに、二人で行かない?」
「何で―」
「何で、って。奈穂と行きたいからに決まってるじゃん!あと、奈穂のリベンジ、かな?」
「リベンジ…?」
「うん!いいじゃん奈穂!二人で行こう。」
一華のわくわくした雰囲気に吞まれそうだった。
「奈穂、ねえ行こう!」
あんなことがあった後で、人の多い、しかも同級生に会うかもしれないお祭りに行く勇気なんて、あるはずがなかった。
でも―、
一華の輝くような笑顔を消す勇気なんて、今の私にはなかった。




