涙色の視界
次の日。
一華は、私が「おはよう」と言い終わる前に、
「どうだった?」と聞いてきた。
楽しみで仕方ない、と言ったような一華の顔。
「ごめん。私…、行けない。」
「…何で…。」
さっきとは人が変わったように、だんだん低くなっていく一華の声。
「私…、人混みが、苦手で…。」
楽しみにしていた一華の顔が脳裏に浮かんで、何度も心の中で謝った。
「大丈夫。」
一華が、そう言った。
「大丈夫だよ、私と一緒だから…。一人じゃないでしょ。」
そう言って、あったかい笑顔で笑ってくれた。
だから、
一華となら行ける気がして、「うん。」と、返事をしていたんだ。
その日は、朝からじめじめしていた。
まるで、私の気持ちに比例するみたいに。
細くて冷たい、小雨が降っていた。
私は玄関の傘置き場から、折り畳み傘を引っ張り出すと、玄関のドアをゆっくりと開けた。
「奈穂ー!」
「あっ、一華!」
一華は、いつもよりおしゃれな服を着ていた。柑子色のセーターに、茶色いチェックのミニスカート。私が持ってないようなのばかりで、少しだけ羨ましかった。
「おはよう!奈穂!」
「…おはよう。」
声が震えていた。
昨日の夜からずっと考えていた。
もし、同級生に会ってしまったら…。
―何で学校も行かずにこんなところに遊びに来てるんだろ。
―ずるいよね。逃げ出したくせに。
―私たちは毎日、必死に勉強して、努力してるのに。
私は、逃げた。逃げ出した。
努力することから逃げて、楽なほうへと、逃げ出した。
私が一番ずるいことなんて、分かっている。
「行こう!」
一華が歩き出した。
私も歩き出した。
でも、前を見つめた視界は、ぼやけていた。




