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むすかり  作者: やきぶたたまこめし
28/30

夢の中




     ❀❀



夢を、見た。

変な夢。

夢だ、って分かっているのに、目覚めることが出来なくて。

私はずっと、夢の中で彷徨っていた。



「うわーん…、やめてよ、ママ、パパ…。」

傍で聞こえる両親叫び声に、幼い私が大声で泣く声。

「あんたはいつもいつも自分勝手に命令してくるだけで、何にもしてくれないじゃん!一華の子育てと仕事と家事との両立で大変なのに…!

父親失格だ、って思わないの!」

やめて―

「俺だって毎日疲れ切ってるんだよ!誰のおかげで食っていけてると思ってんだ!子育ても家事も女の仕事だろ!」

やめて―

「うぅ…。やめてよ、もうやめてよ、ママ、パパ…。」

「幸せ」を真っ黒な絵の具で塗りつぶされていくような恐怖が、幼い私の心に染み込んでいく。

「もうあんたなんて、出てってよ!いらない、あんたみたいな父親!一華もきっと、そう思ってるわよ!もう私たちの前から、出てって!」

やめてやめてやめてやめて―

そんなこと言わないで、お母さん。

本当はそんなこと、思ってないでしょ。

やめてやめてやめて、やめてよ―

もう、聞きたくない―

「分かったよ!こんな家、出てってやる!」

父が旅行用の大きな鞄に、荷物を詰め始めた。

鞄がもう詰め切れないくらい満杯になった時、父は玄関へと続く扉のほうへ向かって行った。

そして、凍えるように寒い外へと続く扉に、手をかけた。

「待ってよパパ!待って!一華たちを置いてかないで!」

キーキーと泣き叫びながら父に縋りつく私を見た母は、「ちょっと!一華を連れてかないでよ!」と言い、私を父から無理やり引き離そうとした。

必死に縋りつく私を、睨みつけるように見た父は、「こんなやつ、いらねーよ!」と言って私を突き飛ばした。


バタン―


そうドアの閉まる音がすると、妙な沈黙が部屋中に漂っていた―




場面が切り替わった。

今度は、真っ暗闇の中にいた。

一人っきりで、傍には誰もいなくて、窓から漏れるかすかな光を頼りに、ベットから降りていく。

「ママ…?いないの…?」

夜間も働いていて、一晩中いない母。

夜眠る時はいてくれるのに、夜中に目を覚ますと、いないことが多かった。

まだ幼い私は、テーブルの上のメモ帳に、不器用に書き出しておいた母の携帯番号を見つめた。

そして受話器を手に取って、何度も何度も母に電話をかける。

「ピッポッパッポ…。―ただいま、電話に出ることが出来ません。」

抑揚のない機械の声は、今でも私の耳に焼き付いて離れない。

「―ただいま、電話に出ることが出来ません。―ただいま、電話に出ることが出来ません。」

何度かけても母のもとに繋がることのない電話は、幼い私の胸にどうしようもない不安と恐怖を植え付けていった。

「ママ…、どこ―?ママ…、ママ……」

そのうち受話器を持って、パジャマのまま酷く寒い外に出て行く。

「ママ…、ママ…、どこ―?」

涙でびしょびしょに濡れた顔や服。

一人ぼっちで、誰にも助けてもらえない私は、夜の闇に隠れて、泣いていた―




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