夢の中
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夢を、見た。
変な夢。
夢だ、って分かっているのに、目覚めることが出来なくて。
私はずっと、夢の中で彷徨っていた。
「うわーん…、やめてよ、ママ、パパ…。」
傍で聞こえる両親叫び声に、幼い私が大声で泣く声。
「あんたはいつもいつも自分勝手に命令してくるだけで、何にもしてくれないじゃん!一華の子育てと仕事と家事との両立で大変なのに…!
父親失格だ、って思わないの!」
やめて―
「俺だって毎日疲れ切ってるんだよ!誰のおかげで食っていけてると思ってんだ!子育ても家事も女の仕事だろ!」
やめて―
「うぅ…。やめてよ、もうやめてよ、ママ、パパ…。」
「幸せ」を真っ黒な絵の具で塗りつぶされていくような恐怖が、幼い私の心に染み込んでいく。
「もうあんたなんて、出てってよ!いらない、あんたみたいな父親!一華もきっと、そう思ってるわよ!もう私たちの前から、出てって!」
やめてやめてやめてやめて―
そんなこと言わないで、お母さん。
本当はそんなこと、思ってないでしょ。
やめてやめてやめて、やめてよ―
もう、聞きたくない―
「分かったよ!こんな家、出てってやる!」
父が旅行用の大きな鞄に、荷物を詰め始めた。
鞄がもう詰め切れないくらい満杯になった時、父は玄関へと続く扉のほうへ向かって行った。
そして、凍えるように寒い外へと続く扉に、手をかけた。
「待ってよパパ!待って!一華たちを置いてかないで!」
キーキーと泣き叫びながら父に縋りつく私を見た母は、「ちょっと!一華を連れてかないでよ!」と言い、私を父から無理やり引き離そうとした。
必死に縋りつく私を、睨みつけるように見た父は、「こんなやつ、いらねーよ!」と言って私を突き飛ばした。
バタン―
そうドアの閉まる音がすると、妙な沈黙が部屋中に漂っていた―
場面が切り替わった。
今度は、真っ暗闇の中にいた。
一人っきりで、傍には誰もいなくて、窓から漏れるかすかな光を頼りに、ベットから降りていく。
「ママ…?いないの…?」
夜間も働いていて、一晩中いない母。
夜眠る時はいてくれるのに、夜中に目を覚ますと、いないことが多かった。
まだ幼い私は、テーブルの上のメモ帳に、不器用に書き出しておいた母の携帯番号を見つめた。
そして受話器を手に取って、何度も何度も母に電話をかける。
「ピッポッパッポ…。―ただいま、電話に出ることが出来ません。」
抑揚のない機械の声は、今でも私の耳に焼き付いて離れない。
「―ただいま、電話に出ることが出来ません。―ただいま、電話に出ることが出来ません。」
何度かけても母のもとに繋がることのない電話は、幼い私の胸にどうしようもない不安と恐怖を植え付けていった。
「ママ…、どこ―?ママ…、ママ……」
そのうち受話器を持って、パジャマのまま酷く寒い外に出て行く。
「ママ…、ママ…、どこ―?」
涙でびしょびしょに濡れた顔や服。
一人ぼっちで、誰にも助けてもらえない私は、夜の闇に隠れて、泣いていた―




