目を覚まさない一華
7、
1週間続いた雨が上がって、太陽が朝を知らせるように街を照らしていた。
雨でじめじめとした地面は、濡れているところと乾いているところで色が分かれており、まだ雫が残る木や花たちは、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「チュンチュンチュン…」
春を告げるような小鳥の鳴き声で、私はようやく目を覚ました。
「ぁ……」
目を開けると、真っ白なベットの上に横たわっていて、ほのかに香る薬の匂いに懐かしさを覚えた。
「っ…!」
少し動いただけで、体中に走るズキズキとした痛み。
泥まみれだった制服はいつの間にかベットの横のハンガーにかけられていて、私は白に小さく水色を合わせたような色の入院服を着ていた。
ふと、自分の腕につけられた点滴を見た。
「はっ!一華っ!」
一華のことを思い出して、自分の横に目を向ける。
隣のベットには、一華が横たわっていた。
静かに眠る一華が、まるで永遠の眠りについたようで、不安な気持ちが渦巻いていく。
悲しそうに目を瞑る整った顔に、青白くなった肌の色。
あの時のことを思い出すと、まだ少し、胸が痛くなる。
「ガラガラガラ…」
病室のドアが開いて、看護師さんが入ってきた。
「あ!奈穂さん!目を覚ましたんですね!」
嬉しそうに安心したように、こちらに笑いかけてくる。
看護師さんは中年のおばさん、と言った感じで、その顔に張り付いている愛想のいい笑顔がよく似合っていた。
「奈穂さん、1週間も眠っていらしたんですよ。」
そう、点滴を確認しながら話す看護師さんに、一番気になっていたことをぶつけてみた。
「あ、あの…、私たち…、何で、ここにいるんですか…?」
私たち…、何で、生きてるんですか…?」
あんな高さの崖から飛び降りて、無事なはずがない。
海に飛び込む数秒間で、私は死を覚悟していた。
全部自分で決めて、やったことだ。
死ぬことなんて、承知の上だ。
ましてやあそこにはほとんど人が来ないから、発見されるのも難しかったはずだ。
「あぁ、あの、一華さんのお母様が、お二人が飛び込んでいくのを見ていらしたようで、ずぶ濡れで二人を救急車まで運んでくださったんです。それで何とか、助かったんです。」
一華の、お母さん。
手紙をくれた人。
もしかしたら、一緒に一華のことを探してれていたのかもしれない。
わざわざあんな手紙まで書いてくださったのに、私、何の役にも立てなかった。
ごめんなさい、一華のお母さん。
一華を、止めることが出来なくて―
私は未だ目を覚まさない一華を見つめ、悲しげに呟いた。
「早く、目を、覚まして…。」
そして、優しげに輝く春色の太陽を見つめた。




