雨色の手紙
6、
一華の姿を学校で見なくなったのは、その次の日からだった。
「死んじゃったんじゃない?」
そんな冗談が聞こえてくると、みんな大声で一華のことを笑う。
私は小さく溢れそうになる怒りを、何とか鎮める。
一番悪いのはきっと、私だ。
何もしなかった。
今になって後悔しても遅いのかもしれないけど、あの時の自分も、今のまだ勇気の出ない自分も、全部、大嫌いだ。
謝っても許されないだろうけど、ごめんね、一華―
今日もまた、一華の席は空っぽだった。
クラスのみんなは一華を、最初からこのクラスに存在しないみたいに、当たり前の顔をして日々を過ごしている。
最近私は、実和ちゃんと琴葉ちゃんと一緒にいることがきつくなってきて、一人でいることが多い。
居場所を失わないように、と一華を助けなかったのに、私はいったい何をしてきたのだろう―?
「ザー…ザザザ―…」
じめじめした泥の匂いと、ひんやりとした空気の雨の日だった。
私の机の中に、誰かからの手紙が入っていたのは…。
「藤本 奈穂ちゃんへ」
そう丁寧な字で綺麗に封がされてあって、宛名は書かれていなかった
私は封をカッターで開けると、中から白い紙を出した。
「こんにちは。初めましてでしょうか?一度、一華を送り届けた時に顔を合わせたくらいなんですが、私はあなたのこと、よく知ってますよ。なんせ一華は、本当に楽しそうにあなたのことを話してくれるんだもの。『奈穂はね!』って。本当にあの頃の一華は楽しそうで、心から笑えていたと思うわ。
でも突然、元気をなくして帰ってきたときがあったの。『どうしたの?』と私が聞いても、『何でもない』って言うだけで、その頃からあの子、笑わなくなっていって…。
昔から一華にはたくさん苦労を掛けてきたの。父親が出て行って、私が抜け殻みたいになっても、あの子は太陽みたいな笑顔で笑ってくれていた。小学校の頃、私がお弁当を作ってあげられなかった時も、友達からいじめの疑いをかけられた時も、私に何にも言わないで、ずっと一人で抱え込んでいた。
あの時も今も、私は何もできなかった。
奈穂ちゃんどうか、一華を助けてやってください。お願いします。
こんなこと言うの、おこがましいって分かっています。でも、一華にはまたあの頃みたいな笑顔で笑っていて欲しいの。
どうか、お願いします。
そして、今まで本当にありがとう。
これからも、一華と仲良くしてやってください。」
雨色の便箋には「一華の母より」と書かれてあった。




