まだ頼りない足元を―
白くてつやつやのご飯の上に、真っ赤な明太子を乗せた。
お茶碗の端にひとまとまりにして、すくい上げた口に運んでいく。
私は、明太子ご飯が大好きだ。
ほんのりピリっとした辛さがあるのを、ご飯が優しく包み込んでくれる。
明太子ご飯なら、何杯でも食べられそうな気がする。
特に、前に家族旅行で食べた本場の「博多明太」は、無限に食べられそうなくらい美味しかった。
もう一度食べたいな、と今、ふと思った。
今日は精神科の病院に、先日受けた検査の結果を聞きに行く予定だ。
少しだけある胸の奥の不安に気づくと、無性に明太子ご飯が食べたくなったのだ。
朝ごはんを食べ終えると、普段着に着替え、母の車に乗り、病院へと向かった。
「先日受けた検査の結果ですが、このようになっております。」
ぽっちゃりとした体形のほんわりとした雰囲気の女の先生が、私たちに何かがびっしりと書かれたプリントを見せてきた。
「奈穂さん、今まで授業を受けていて、他のことに気が散って集中できなかったり、周りの音、光が気になったりしたことはありませんか?」
改めて考えてみると、そんなことがたくさんあった。
周りの視線や言葉、蛍光灯の眩しすぎるくらいの光や、隣のクラスから聞こえる先生の大声、工事の騒音、など色々なことに気が散り、話を聞くどころではなかったのを覚えている。
「確かに、周りの視線や光、音が過敏に気になったりします。」
先生によると、周りの視線や光、音などに過敏に反応してしまう人のことを「HSP―神経過敏症」というらしい。人口の5人に1人はいるらしく、なんでも生まれつきの体質なんだ、と言っていた。
私は病院の懐かしい薬の匂いを感じながら、先生の話をなんとなく聞いていた。
最後に、先生が言った。
「学校に行けない子たちには、一人一人、様々な理由や辛さ、生き苦しさを抱えています。その中で、学校に行く最後の一歩がなかなか踏み出せず、ずっと通えないままの子もいます。だから奈穂さんが踏み出した一歩も、そう簡単なものではなかったはずです。…今まで本当に、よく頑張りましたね。」
優しいまなざしだった。
まだ頼りない足元を、強く優しく、照らしてくれているようだ。
「その中で、学校に通えない子を理解してくれない人、疎ましく思う人も、たくさんいると思います。こればかりはしょうがないことで、学校に通えない子はそういう声に耐え、認めることも大切なことなのではないか、と思います。これからも、奈穂さんなりのペースで歩んで行ってくれれば、と思っています。頑張ってくださいね。」
今まで誰も、私の辛さも苦しさも、分かってくれないと思っていた。
誰も完全には分かってくれないんだ、って。
そう思って、諦めていた。
でもこんな風に言ってくれたら、今までの私の苦しみを辛さが、少しでも報われたような気がした。
私は、目の端に小さく浮かぶ雫を、空色のハンカチで拭った。




