すれ違ったままの気持ち
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高校の入学式だけは、来てくれた。
母は、頬のこけた顔に薄くメイクを施して、私と一緒に島の高校まで来てくれた。
初めての母と一緒の学校行事。
そこで、奈穂の姿を見た。
あの頃から、何一つとして変わらない奈穂の姿を見た時は、怖さより嬉しさのほうが勝っていた。
でもやっぱり、恐怖や後悔に心を支配されてしまって、すぐに帽子を深く被って、自分の顔を隠した。
気付かないで―そう願った奥で、気づいてほしい―というわがままな感情も抱いていた、みたいだ。
「あの、私の母、車に荷物を置きに行ったので、順番抜いてください。」
話しかけられた。
嬉しいような、でもやっぱり怖くて―
「ありがとうございます…。」
隣にいる母のか細い声が聞こえると、足早に立ち去ろうとした。
「あの…!」
真っ黒な絵の具に少しだけ白が混ざったみたいに、少しだけほんの少しだけ、嬉しかった。
気付いて、くれたのかな、って。
「奈穂ー!」
奈穂のお母さん、かな…?
家に遊びに行ったときに、一度だけ会ったことがあった。
私は何故か、その場を後にしていた。
母がびっくりして「どうしたの?」と聞いてきたけど、「何でもないよ。」って言って、ごまかした。
どうしてあそこから逃げてしまったのか、自分でも分からなかった。
本当に本当は、「気づいて」って、ずっと願っていたくせに―。
❀❀
入学式の次の日は、普通に6時間授業だった。
私は、市内の駅から島までバスで行き、バス停から自転車で学校に向かった。
まだ慣れない校舎や、初めて会うクラスの人たちに少し怯えながら、朝の教室にぎこちなく足を進めて行く。
校舎の靴箱前で確認した出席番号は「1年2組 19番」。
今まで通っていた小学校や中学校とは比べ物にならないくらい少ない生徒数に、初めは少し驚いたけど、大勢がいるより居心地が良かった。
「19番…19番…。」
これから飽きるほど使う出席番号を口ずさみながら、「19番」と書かれた席を探した。
「あった…!」
そう思って顔を上げると、見慣れた顔が目の前にあった。
少し茶色の混ざった長くて艶のある髪を、後ろで三つ編みにして―
昨日の女の子― 一華、だ。
初めて会った時と同じ、一華の愛嬌のある顔によく似合った髪型。
「い…、一華…?一華、だよね…!」
もう―会えないと思っていた。
驚きのあまり無言の時間が続いた後、私がそう切り出しても、一華は答えてくれない。
「……。」
「キーンコーンカーンコーン…」
予鈴が鳴ると、さっきまでは騒がしかった教室がだんだん静かになっていき、みんなが席についていく。
「あ……。」
一華も席に着こうと、戻っていく。
「待って…!」
予鈴が鳴り終わってホームルームが始まると、私はそれ以上一華に話しかけることが出来なかった。




